東京大学の2018年入試で、不倫を題材にした古文が出題されていた。このご時世に、なぜ不倫問題なのか考えてみた。
国語第二問「太平記」
解答例は河合塾解答速報より引用しました
高師直は、人妻になっている女に手紙を出す。わざわざ兼好法師に書かせたが、女に読んでもらえず、庭に捨てられてしまう。師直は「今日よりその兼好法師、これへ寄すべからず」と怒り、出入禁止にしてしまうのである。
そもそも隠遁者に恋文を発注する方が間違っていると思うのだが。恋や欲を捨てて世捨て人になっている兼好からすれば、権力者師直からの恋文代筆の命令はいい迷惑だったのかもしれない。
まあ作り話としても、太平記作者が兼好法師に批判的であることが見て取れる。
さて、薬師寺次郎左衛門公義という者が現れ、師直はこの男に相談する。
公義は和歌のみ書いて女に送る。女の反応を仲立ちから聞いて公義は、これは脈ありだと判断する。師直は喜び、公義に褒美を与える。
他愛もない話だといえばそれまで。
東大がなぜこんな不倫に関する題材を出題したのかについて考えてみる。
師直の時代に不倫という現代のような概念はなかっただろうから、不倫の善悪は問題ではない。
権力者が美しい女性を、たとえ人妻であっても、求めるのはよくある話だ。
ポイントは、公義が女の本心を読み解くところだ。くどくどと手紙を書いて送るのではなく、和歌を送り、その返事から出典の新古今の和歌を想起し、歌意を読み解く。公義は武士でありながら、歌道にも心得がある点を師直は大いに喜び、賞賛する。
このことから推測すると、この古典問題には、専門バカでなく、幅広い教養を持ち、人情の機微を理解し、臨機応変に対応できる、公義のような人材になれというメッセージが込められているのではないか。
権力者に忖度することだけが部下のあり方ではないだろう。
「太平記」は、岩波文庫で全六巻 兵藤裕己校注ででています。