センター試験国語の第1問評論「河野哲也 『境界の現象学』」を解いてみました。
今年が最後のセンター試験になるということで、長年、国語を教えてきた立場で、今年の評論の特徴を分析しました。また、書き込みで汚い所もありますが、解き方の手助けにもなればと思い、私が解いた問題用紙も画像で掲載します。
今求められる「国語力」とはどんなものなのか。受験生、高校生はもちろん、大人のみなさんも一度トライしてみてください。
問題と解答はこちらのリンクからどうぞ
https://nyushi.sankei.com/center/20/1/exam/3910.pdf
段落の要旨をまとめました。通し番号は形式段落の番号です。問題文にも番号が振られています。
1環境問題専門家の比喩
2港に停泊しているヨットと荒海のヨットで、コップの水を運ぶときの違い
波に対するレジリエンスの向上を求められる
3レジリエンスとは、攪乱を吸収し、基本的な機能と構造を保持し続けるシステムの能力
4もとは、物質が元の形状に戻る弾性のこと
六〇年代に生態学や自然保護運動で用いられる、環境変化に対し動的に応じる適応能力
5回復力、サスティナビィリティと類似するが、微妙な違い
回復力―ベースライン、基準に戻ること
レジリエンスー変化に合わせて流動的に姿を変更する
6サスティナビィリティー唯一の均衡点が期待される
レジリエンスーダイナミズム
7八〇年代は心理学や精神医学、ソーシャルワークの分野で使われる
ストレスなどへの抵抗力、病気から立ち直る心理的な回復力
8フレイザーの主張―ソーシャルワーク、教育の分野でのレジリエンスの重要性
従来―患者の問題を専門家がどう除去するか
レジリエンスー患者の自発性、潜在能力に着目し患者中心の援助
9ソーシャルワークの特徴―人間と社会環境の相互作用に働きかける
クライエントの支援―レジリエンスが活かせる環境を構築すること
10レジリエンスに重要な意味を持つのが脆弱性
脆弱性は変化や刺激に対する敏感さを意味し、環境の不規則な変化や悪化にいち早く気づける
11近年、エンジニアリングの分野で、安全に関する発想法として登場
適度な冗長性を持ち、柔軟性に富む組織の能力を高める方法
12レジリエンスの概念の特徴は、自己と環境の動的な調整に関わること
環境を選択したり、改変したりすることが求められる
レジリエンスは、システムが変化する環境のなかで自己を維持するため、環境との相互作用を連続的に変化させながら柔軟に適応していく過程
13レジリエンスをミニマルな福祉の基準とする
変化に適切に応じる能力を持つようにすることが福祉の目的
他者から与えられるものを受け取るばかりではなく、自分自身でそのニーズを能動的に充足する力を持つ必要がある
14レジリエンスとは、個人が持たねばならない最低限の回復力
自己のニーズを満たせなくなった個人に対してケアする側がなすべきは、物を修復したり、補償の金銭を付与したりではなく、自分のニーズを満たせる力を獲得するように支援すること
各設問について
問1 お約束の漢字問題。今年の漢字は易しい。
本来は、本文の中での意味を確認して解きますが、今年はこの問題を見るだけで解けるレベル。
(エ)カタヨって の選択肢が「国語のヘンサチが上がった」というのは、易しすぎ。
もうちょっとひねってほしい。
問2「微妙な意味の違い」の説明は、5段落、傍線部の直後にある。本文から根拠を見つけ、選択肢の文言と照らし合わせる。易しい問題。
問3 「脆弱性」の説明は、10段落、これも傍線部の後にある、「いち早く反応するセンサー」と9段落にある「本人が持つレジリエンスが活かせる環境を構築すること」が根拠になる。選択肢の前半と後半では、根拠になる部分が離れているため、探すのにやや時間がかかる。
問4 「ミニマルな福祉の基準」の説明。13段落と14段落に根拠がある。
余談ですが、この「ミニマル」は当然、「基準」にかかるのですが、筆者の主張を読むと「ミニマルな福祉」つまり、国や他人が関わるのは最小限でよいと言っているように読めてしまいます。いわゆる「自己責任論」です。
誤読を避けるなら、「福祉のミニマルな基準」と書き直すのが適切でしょう。
問5 最近のセンター試験のお約束、生徒の話し合いの設定です。共通テストへの布石でしょうが、個人的には全く感心しません。ネタ切れ、バリエーション不足が目に見えています。
「発展成長する動的過程」「動的」がヒントです。易しい問題ですね。
問6 設問が(ⅰ)適当なもの、(ⅱ)適当でないもの と意地悪く?変えてあるので、ケアレスミスに注意。選択肢を一つ一つ吟味する時間が少しかかります。
感想
各段落の要旨を見ると、情報量が多く、それらを的確につかみ、設問の要求に応えなければなりません。一番求められている力は、論理の力というより、情報の分析力です。
時間があれば、それほど難しくはない文章ですが、20分程度の時間でこれだけの情報と分析をこなさなければならないのは、かなりたいへんです。
内容的には、二元論、自己責任論といったところが関連キーワードとしてあげられます。
残念なのは、13段、14段の筆者の主張に、具体性が欠ける点です。福祉の分野で、現実のどういうケースのことが論じられているのか、ちょっとわかりませんでした。
論理の展開が、複雑だが明晰である文、世界の真実の一端に触れるような深遠な文を来年の「共通テスト」には求めたいと思います。