京都大学 理系 2020年 前期 国語 第二問
『妖怪学新考 妖怪からみる日本人の心』小松和彦
形式段落の要旨をまとめました
番号は形式段落の通し番号です。
1谷崎潤一郎『陰翳礼讃』―昭和の初めころには、闇の消失が目立ったものになってきた
2屋内の「眼に見える闇」―幻覚を起こしやすい
闇に魑魅、妖怪だけでなく女も住んでいた
逆に女の体から闇が出されていたのかもしれない
3燭台、行灯の明かりと陰にできる闇の調和に日本文化の美しさが
明る過ぎる電灯により陰翳ある世界が消失することを憂う
光りと闇の織りなす陰翳
4日本の美の理想
美のみでなく日本人の精神や日本文化全体、人間全体にとっても重要
5闇の消失は電線が全国に張りめぐらされた大正から昭和にかけて
近代化の波、資本主義、近代的消費社会のシステムへ編入
同時に妖怪の姿も消え去る
6大正時代の童謡『かなりや』の一節「後ろの山」
闇の領域としての恐怖に満ちた山
前近代が抱えもつ深い闇の恐怖空間
大人にも謎めいた闇の空間として生きていた
7仏壇や納戸の暗さー「向こう側」「背後」を隠しもっている恐さ
8子どもだけでなく大人も同様
『かなりや』-大人の心を揺さぶる
本文の読み取りは、難しくありません。
2段落は、身の回りのものや風景に女体を見る、谷崎ワールド全開です。
設問は3問。問二のみ「本文に即して」という条件がついている点に注意。
解いてみた感想は、問一と問二の解答が重なりそうになってしまい、本文の範囲のどこを使うかが難しいなということ。
解答例は、河合塾のサイトを参照してください。
https://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/20/k01-32a.pdf
京都大学が理系の受験生にこの問題を課したねらいを考えてみました。
科学は世界のすべてを解き明かす事ができる訳ではない、
日本の美や精神、文化、人間全体、あるいは妖怪的なものに対する関心や知識を持つことが理系にも必要だ。
広く言えば、人間に対する人文学的アプローチも重視せよ。
といったところでしょうか。
谷崎潤一郎は、戦後、京都に住んでいた時期があります。お墓も京都にあります。
京都ゆかりの谷崎の「陰翳礼讃」は読んでおくようにということでしょう。
「感性」が注目されてきた現代、建築を目指す人はもちろん、どの理系分野でも発想のヒントになると思います。
ぜひ読書をおすすめします。
共通テストで予告されている実用的な文章、契約書やパンフレットを読んでも、おもしろくもないし、読解力がつく訳でもありません。
京都大学には、今後もこのような良問をぜひ出題してほしいですね。