九州大学 今福龍太「宮沢賢治ーデクノボーの叡知」
形式段落に通し番号をつけました(赤字)
形式段落の要旨です。
1模倣(ミメーシス)能力は人間文化における創造性の根源にあるもの
2ベンヤミン「模倣の能力について」
文字以前の文化は内蔵、星、舞踏を読むことからはじまった
内臓を読むとは、人類が内臓感覚を生命記憶の源泉と意識すること
洞窟壁画という模倣の能力の発露が芸術を生み出した
3ミクロネシアの島民ー星座をもとにした独特の航海術
身体的感覚で星の配置を読み取り方向感覚へ投影する
西欧の占星術ー天体を読み身体や世界イメージへと結びつける感覚的思考法
4舞踏ーミメーシスがもっとも深く探究された
メキシコのヤキ族「鹿の踊り」ー神や精霊と交流し世界を蘇らせる
5宮沢賢治「鹿踊りのはじまり」ー舞踏的な身体としてはたらくミメーシスの技法を見事に描き出す物語
森の中を飛び跳ねる鹿の所作をダンスとしてまねし、鹿踊りという芸能を創造する
ミメーシスを通じて自然を文化の側へ架橋する
6子供たちの遊びー模倣的な行動様式でつくられてきた
7身体的ミメーシスは森羅万象と自己とのあいだに呪術的・霊的な交感の関係を打ち立てることで達成
模倣の繰り返しの蓄積によって成立した人類文化の最終的な産物が言語
賢治の擬声語や擬態語、手で書かれた文字
8現代のディジタル化した社会ー文字は情報伝達のための記号的符牒にすぎない
宮沢賢治を読むことは、彼の書き付けた文字そのものの模倣性を身体的なミメーシスの感覚でたどりなおす行為
解説です。
この文章は、何もかもを頭(理性)でとらえようとする現代に対するアンチテーゼであり、宮沢賢治の作品を読むことで、模倣の能力、身体感覚を取り戻そうという考えが示されています。
設問は6問とも「説明せよ」となっています。本文がしっかり読み取れていれば、そう難しいことはないでしょう。
ただし、問5は注意です。
「それは具体的には何か」と指示されているので、「具体的」の範囲がどの程度かを考える必要があります。
駿台と河合塾の模範解答を見ると、かなり違っています。「擬声語、擬態語、手書き文字」をあげた河合塾の方が出題者の求める「具体的」に近い解答と思われます。
模範解答のリンクです。
https://www2.sundai.ac.jp/sokuhou/2021/kyu1_kkg1_1.pdf 駿台
https://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/21/ky1-31a.pdf 河合塾
早稲田大学法学部も今年、同じ「宮沢賢治ーデクノボーの叡知」からの出題でした。もちろん使われた部分は異なります。
次年度以降も出題される可能性がありますね。
受験生のみなさんは、今福龍太「宮沢賢治ーデクノボーの叡知」を一読しておきましょう。
さて、話は変わりますが、4段でメキシコのヤキ族が鹿の頭部を頭にかぶって踊ることと5段の宮沢賢治の「鹿踊りのはじまり」とから、昨年行われたフォートナイトの米津玄師ライブを連想しました。
参考に動画サイトのリンクを貼っておきます。
https://youtu.be/uZWvAsFfB8g 米津玄師がパーティーロイヤルに登場 | フォートナイト公式
鹿ではなく、アルバム「STRAY SHEEP」のジャケットイラストの羊を面にして被り、不思議な踊りを踊る米津さんが見られます。
賢治好きで知られる米津さんは、「鹿踊りのはじまり」を確実に読んでいるでしょう。
このメソーシスや自然との交感などを重ねて考えると、米津さんの音楽の特長について、発見があるかもしれません。