東大の小説問題に学ぶ現代の親子関係 仲谷実織「宿雨のあとで」
東京大学 2026年度 前期 文科 国語 第四問 小説






設問は4問で、すべて「説明せよ」です
(一)「クリスマスツリーのようにも見えるそれを、彼女はやがて踏み潰した」ー翔子の心情
・親の転居により有無を言わせず、これまでの環境と人間関係から引き剥がされ、新しい環境になじめないでいる
・翔子は牛舎の匂いや見慣れない草に嫌悪感を抱いている
これらから解答を作成します
(二)「彼女ー弥生さんは、目尻に皺を浮かべ、悪戯っぽくほほ笑んだ」ー弥生の気持ち
・手入れが行き届いた他の畑と違って雑草も混じって生えている混沌とした畑に自信を持っている
・犬のアンバーと触れあう翔子なら畑を気に入るだろうと思い、ぜひ見せたいと思っている
(三)「そう答えるわたしの声もはずんだものになっていた」ーなぜか
・授業参観に来ないでといった翔子
・相談した夫の曖昧な笑みと任せるという発言
・思い切って授業参観をさぼり、弥生さんとアンバーに会いにいく提案をした
・驚き喜ぶ翔子の顔を見て自分もその方がよいとうれしくなった
(四)「彼女の言葉に思わず翔子を見てしまう」ーなぜか
・弥生さんの、つらいことはやらなくても育つ、手間をかけすぎるとうまくいかないという言葉を、まるで母親から聞かされたかのように翔子の子育てのヒントになると気づく
・翔子への対応の指針を言葉から得たと思う
解答例 河合塾の模範解答です
(一)両親の都合で慣れ親しんだ世界を奪われ、新しい環境にもなじめないなか、勢いよく伸びた草にまで苛立ちをぶつけてしまうほど、鬱屈を持て余している。
(二)何か事情ありげな少女とその母親に、周囲とは違い作物をのびのびと育成させている混沌とした畑を見せ、二人を驚かせようとした目論見が功を奏し、満足している。
(三)母娘とも気乗りしない授業参観に行くよりも、弥生やその飼い犬と畑まで散歩に行くことができれば、閉塞した現状を変えられるのではないかと思ったから。
(四)作物に手を加えすぎるとうまくいかないという弥生の言葉を聞き、親の都合や考えで娘がのびのびと育つことを疎外してはいけないのではないかと感じたから。
この解答例ほど難しい言葉遣いをしなくても、しっかりと読み取れていれば、十分な解答を作成できると思います。
駿台予備学校の解答例も検索して参考にしてみてください。駿台の方がすっきりした文章になっています。
考えたこと
まず、この小説が入試問題としてよかったと思う点を書きます。
・親子関係ー母と娘(さらに「わたし」と母も)という誰しもが持つ普遍的なテーマである
・「わたし」の視点、一人称から見た娘と弥生さん、夫の姿が描かれており、人間関係がつかみやすい
・時代背景は現代と思われ、受験生には身近な題材である
・結末部分が「笑い声」で明るい方向に向かっていると感じられ、読者(受験生)も安心できる
入試問題では、先の戦争や江戸時代など、現代とは異なる時代背景や人間関係の設定の小説が多いようですが、これは読みやすく、読んでいるときの心情の振れ幅も大きくなく冷静に問題に向き合えると思います。
小説問題を解いていて感極まって泣き出しそうになるものもありますから。
これはしっとりとして細やかな描写がすばらしい小説です。
次に、二年続けて小説を出題した東大の意図を考えます。
高校では一年生で学ぶ国語は、「現代の国語」と「言語文化」に分かれており、殆どの学校では「現代の国語」で評論と実用的文章を学び、「言語文化」で古文と漢文を学びます。
高校の現場では、評論と古文、漢文を教えるのが精一杯で、小説など文学的な作品を扱う時間が殆どないのが現状です。
さらに専門的な話になりますが、学習指導要領で、「論理国語」と「文学国語」に無理矢理わけているので、小説を学ぶ機会を失っている現在の高校生に対して、小説を出題することで、現行への批判とまではいわなくても、小説の読解を補完する意図があるのではないかと考えます。
そうだとしたら東京大学が入試問題で小説を出題するのも、国語教育には有用な影響を与えているといえるでしょう。