bluesoyaji’s blog

定年後の趣味、大学入試問題の分析、国語の勉強方法、化石採集、鉱物採集、文学、読書、音楽など。高校生や受験生のみなさん、シニア世代で趣味をお探しのみなさんのお役に立てばうれしいです。

STRAY SHEEPの謎を考える よし子は当て馬か?「三四郎」夏目漱石

 

 

 

STRAY SHEEPの謎を考える中で、よし子という存在が気になります。

 

女性に慎重な三四郎が、よし子のことは最初から全肯定なのです。

疑ったり、考え込んだりすることなく、よし子を素直に受け入れて、まるで母親のように感じるのです。

 

 よし子に始めて出会う場面

野々宮さんに頼まれて、入院している妹のよし子に届け物をする場面です。

青空文庫から引用しました。

 女は三四郎を待ち設けたように言う。その調子には初対面の女には見いだすことのできない、安らかな音色《ねいろ》があった。純粋の子供か、あらゆる男児に接しつくした婦人でなければ、こうは出られない。なれなれしいのとは違う。初めから古い知り合いなのである。同時に女は肉の豊かでない頬《ほお》を動かしてにこりと笑った。青白いうちに、なつかしい暖かみができた。三四郎の足はしぜんと部屋の内へはいった。その時青年の頭のうちには遠い故郷にある母の影がひらめいた。

 

美禰子に劣らず若くて美しいよし子に対して三四郎は、美禰子とは正反対の受け止め方をしています。

 

広田先生の引っ越し手伝いの場面で、美禰子と急接近した三四郎は、美禰子、広田先生、与次郎の四人で楽しそうに談話していると、野々宮さんがやってきます。
野々宮さんが登場した後、三四郎の言葉は一言だけ。あとは黙ってすわっています。

三四郎の、野々宮さんに対する警戒心がうかがえます。


そして、次の章では三四郎は驚きの行動をとっています。

野々宮の家に出かけていき、妹のよし子から、美禰子と野々宮の関係を聞き出そうとします。

その時の、よし子とのやりとりを見てみましょう。

 
現代から見ると、ふさわしくない表現が含まれています。文学鑑賞という次元で考察するため、そのまま引用します。

「おはいりなさい」

 依然として三四郎を待ち設けたような言葉づかいである。三四郎は病院の当時を思い出した。萩を通り越して椽鼻まで来た。

「お敷きなさい」

 三四郎は蒲団を敷いた。門をはいってから、三四郎はまだ一言《ひとこと》も口を開かない。この単純な少女はただ自分の思うとおりを三四郎に言うが、三四郎からは毫《ごう》も返事を求めていないように思われる。三四郎は無邪気なる女王の前に出た心持ちがした。命を聞くだけである。お世辞を使う必要がない。一言でも先方の意を迎えるような事をいえば、急に卑しくなる、唖《おし》の奴隷のごとく、さきのいうがままにふるまっていれば愉快である。三四郎は子供のようなよし子から子供扱いにされながら、少しもわが自尊心を傷つけたとは感じえなかった。

 (中略)

 茶の間で話し声がする。下女はいたに違いない。やがて襖《ふすま》を開いて、茶器を持って、よし子があらわれた。その顔を正面から見た時に、三四郎はまた、女性中のもっとも女性的な顔であると思った。

 よし子は茶をくんで椽側へ出して、自分は座敷の畳の上へすわった。三四郎はもう帰ろうと思っていたが、この女のそばにいると、帰らないでもかまわないような気がする。病院ではかつてこの女の顔をながめすぎて、少し赤面させたために、さっそく引き取ったが、きょうはなんともない。茶を出したのをさいわいに椽側と座敷でまた談話を始めた。

(中略)

三四郎はよし子に対する敬愛の念をいだいて下宿へ帰った。 

 

 

 

兄の野々宮を敬愛し、だだをこねるように甘えるよし子。野々宮と恋愛関係にあるのか今一つはっきりしない美禰子。

 

三四郎が訪問したとき、絵を描いていたよし子。原口さんに絵を描かれている美禰子。

 

三四郎には単純な少女、無邪気な女王、子供のようなと思われているよし子。美禰子は謎めく女性。

 

二人は対照的です。「三四郎」の中で、よし子の存在は、美禰子のアンチテーゼとして、美禰子とはパラレルな関係を示しています。

 

 

 よし子の存在を考えてみると、漱石は、三角関係を設定しようとしたのではないでしょうか。三四郎と美禰子とよし子。

しかし、うまくいかなかったようです。

すでに野々宮さんと美禰子、三四郎という三角関係があるので、さらによし子が加わると、ややこし過ぎて読者はついて行けません。

 

三四郎の求める理想の女性は美禰子で、現実はよし子なのかも知れません。

 

三四郎に後日談があるとすれば、美禰子に振られた三四郎は、よし子と結婚することになるでしょう。