京都大学 2021年 文系 国語 第二問 随筆 石川淳「すだれ越し」
石川淳は明治32年(1899)〜昭和62年(1987)東京生まれの小説家。36歳で「佳人」を書き、昭和11年「普賢」で芥川賞を受賞、戦時中は一貫して抵抗の姿勢を貫く。戦後は太宰治や坂口安吾とともに無頼派と呼ばれた。小説、評論に独自の世界を展開した。(東京書籍 新総合図説国語を参照しました)
現在の高校国語の教科書では、掲載されているのを見たことがありません。おそらく受験生にとっては初めて読む作家でしょう。
戦中の体験と戦後まもなくの体験が語られた本文は、旧仮名づかいですが読みやすく、読解に困ることはありませんでした。
設問は、5問すべて「説明せよ」です。
解答は、河合塾や駿台のホームページで模範解答を見ることができます。
https://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/21/k01.html 河合塾
https://www2.sundai.ac.jp/sokuhou/index.html 駿台
今回も私の解答は、駿台の模範解答に近いものとなりました。
駿台は本文の表現を使いながらわかりやすくまとめられています。一方、河合塾は、言い換えがされており、語句もやや難解です。
第一問評論の記事でも書きましたが、こちらは受験生が作成するにはレベルが高いと感じました。
一つだけ気になったのは、問二です。
「あはれなカナリヤもまた雷にうたれた」はどういうことか説明。
カナリヤは、わたしの隣に住む毎朝歌を歌う少女を指します。雷にうたれるとは、その少女が空襲の直撃弾にうたれて死んだことです。予備校の模範解答もこの二点を用いて説明しています。
私はカナリヤの記述から、鉱山で用いられていた、かごの中のカナリアを連想しました。危険を察知するために飼われたカナリアです。
その説明は次の通り。
いわゆる炭鉱のカナリアは、炭鉱においてしばしば発生するメタンや一酸化炭素といった窒息ガスや毒ガス早期発見のための警報として使用された。本種はつねにさえずっているので、異常発生に先駆けまずは鳴き声が止む。つまり危険の察知を目と耳で確認できる所が重宝され、毒ガス検知に用いられた。(Wikipediaより引用しました)
少女の死は、私にも危険が近づいてくる予兆だったはずですが、わたしは「不吉の前兆のやうにちよつと気になつたが、それもぢきにわすれた」と書かれています。
河合も駿台も模範解答で「炭鉱のカナリア」には触れていませんが、私は、作者が炭鉱のカナリアのイメージを重ねているように思いました。もし、それを書いたなら、答案はどう採点されたでしょうか、気になります。
さて、京都大学がこの出典を選んだ理由を考えてみましょう。
推測ですが、三点上げられます。
まず、文章が大変すばらしい点です。旧仮名づかいですが、読みやすく味わいもたっぷりある文章です。
二点目は、戦争を扱っていること。この数年、国公立大学の二次試験では、戦争を題材にしたものが見受けられます。文学作品で戦争に触れ、考えるようにという大学側の思いがあるのでしょう。
三点目、石川淳の作品が、戦時中、反軍国調として発禁処分を受けたこと。時代に迎合しない反骨精神が京都大学っぽくて(?)評価されたのではと思います。
この「すだれ越し」は「石川淳随筆集」平凡社ライブラリー 2020年8月出版 に掲載されています。ひょっとすると、問題の作成者は、この書籍を読んで、入試問題への採用を思いついたのかもしれません。
私は、石川淳は未読でした。この問題での出会いを機に、石川淳の作品を熟読し、勉強したいと思います。