2022年京都大学 前期 国語 文系学部
第一問 岡本太郎『日本の伝統』
本文の内容をまとめました。
1 今日の若い世代は日本の古典芸術よりも西洋の古典芸術の方を理解している。
2 法隆寺金堂壁画の焼失のニュースは、十大ニュースの9位でしかない。
3 失われたものを嘆くよりも、悔いと空虚を逆に作用させ、すぐれたものを作り、伝統としていけばよい
4 そんな気魄こそ伝統継承の直流だ
5 今までの伝統主義に終止符を打ち、新しい世代に、とらわれない新しい目で伝統を直視するチャンスを与えるべきだ
6 竜安寺の石庭で「イシだけ」「タカイ」と言った人は、即物的な再発見によって権威や伝統をたたきわったと言える
7 そんなむぞうさな気分でぶつかって、伝わってくるものが本物、芸術の力であり伝統の本質だ
8 小林秀雄に骨董コレクションを見せられたとき、言い当てると小林は感激し次々と秘蔵品を持ち出した
9 その姿を見て気の毒でもの悲しい気分になった
10 美に絶望し退屈している者こそ本当の芸術家だ
岡本太郎の主張が絶好調?の文章です。
伝統に対する考えがはっきりとつかめます。
小林秀雄のエピソードは、小林をありがたがる文学関係者真っ青の内容で、おもしろいですね。小林の本質を突いた筆力がすばらしい。
さて、設問を見ていきましょう。
5問すべて「説明せよ」という潔い?設問です。さすがですね。
問一 傍線部1(どっちがこれからの世代に受けつがれる伝統だか分からなくなってきます)はどういうことか、説明せよ。
「どっち」とは、コーリンとかタンニュー、つまり日本の古典芸術と西洋の古典芸術を指しています。
西洋の古典芸術を見知っている若い世代にすれば、日本の古典芸術に魅力を感じなくなっていることです。
問二 傍線部2(自分が法隆寺になればよいのです)はどういうことか、説明せよ。
「法隆寺」が指すものとは何かをつかみましょう。
伝統だと評価されたものが失われたことを嘆くよりも、自分がよりすぐれたものを創作し、伝統にする姿勢が大事だということです。
問三 傍線部3(どうもアブナイ)のように筆者が言うのはなぜか、説明せよ。
直前に「うっかり敵の手にのりかかっていたんじゃないか」とある。これがアブナイの内容。
今までの伝統主義にとらわれない新しい目で伝統を直視しようとしていたのに、逆に伝統にからめとられてしまいそうになっていたから。
問四 傍線部4(それこそ芸術の力であり)はどういうことか、説明せよ。
「それこそ」は直前の内容を指す。さらにその前2行分を加えて考えましょう。
権威や伝統的価値から離れて、無造作な気分で対象にぶつかり伝わってくるものが本物の芸術ということです。
問五 傍線部5(美に絶望し退屈している者こそほんとうの芸術家なんだけれど)について、「ほんとうの芸術家」とはどういうものか、本文全体を踏まえて説明せよ。
本文全体とあるので、石庭や小林秀雄のエピソードから読み取れる筆者の考えを盛り込む。
伝統や世間の評価にとらわれず、自分が新たな美を作り出し伝統にするという気魄をもち、芸術に取り組む者。これを軸として、言葉を足してください。
模範解答は、河合塾や駿台のサイトに発表されています。
河合塾は、大変参考になりますが、解答の文言が難解で、高校生にはこの文章を書くのは、ちょっと無理やろと思います。
駿台の方は、比較的親しみやすいです。河合塾の模範解答を見て自分には無理と絶望しないで、どちらも見て吸収しましょう。
ちなみに理系学部は、問四が削除されていて、後はすべて文系学部と同じ設問です。
理系を目指す人も、高いレベルの記述力が求められています。
まとめ
権威、伝統に逆らい、新たな美を打ち立てる岡本太郎の精神を読み取らせることで、若い学生に必要な教養を示しています。
京都大学の学生には、岡本太郎の思想を引き継ぎ発展させてほしいと願います。