文学
「紙の動物園」ケン・リュウ ハヤカワ文庫 電車の中で読まないでください 涙が止まらなくなるからヒューゴー賞・ネビュラ賞・世界幻想文学大賞 3冠に輝いた「紙の動物園」胸を打ち心を揺さぶる短編集と文庫の帯に書いてあります。 また大げさなコピーだと思…
「続ものがたり風土記」 阿刀田高 集英社文庫 前回この記事で紹介した「ものがたり風土記」がたいへんおもしろく、すぐに読了したので、続編も読み始めました。 平衡感覚(岩手2)では宮沢賢治の「鹿踊りのはじまり」が紹介されています。原作を読むと、これ…
ものがたり風土記 阿刀田高 集英社文庫 筆者が、文学に詳しい「市さん」とふたりで各地を巡り、その地に関わる物語について対話しながら考察するという形式で書かれている。 ふたりはまるで芭蕉と曾良の旅を思わせる。 筆者と市さんの博識と推理が興味深く、…
来年(2022年度)の高校一年生からは、全員タブレットを使うことになっています。 私が今年の四月から担当している一年生は、全員タブレットを導入しています。 授業でタブレットを活用するために、授業用シートを作りました。 教材は、国語総合の現代文…
光文社古典新訳文庫 高遠弘美訳 そして、私の思考も、そんな椅子に似た揺籃のようなものではなかったか?外界で生起することを眺める場合でも、私はその中にどっぷりと身を沈めているー私はそう感じた。外界の事物を見ているとき、自分がそれを見ているという…
今年2021年の京都大学の入試問題に出題された石川淳「すだれ越し」がおもしろかったので、石川淳が読みたくなり、まず「山桜」を読んでみました。 これがとてもおもしろい小説だったので、紹介します。 石川淳「山桜」 構成を見ましょう。 金を借りに行った…
京都大学 2021年 文系 国語 第二問 随筆 石川淳「すだれ越し」 石川淳は明治32年(1899)〜昭和62年(1987)東京生まれの小説家。36歳で「佳人」を書き、昭和11年「普賢」で芥川賞を受賞、戦時中は一貫して抵抗の姿勢を貫く。戦後は太宰治や坂口安吾とと…
長編小説で読了が難しい作品と言えば、「失われた時を求めて」ですが、我が国の傑作古典「源氏物語」も読了が難しいです。 www.bluesoyaji.com 長年、国語教師をしていますが、何度も読了に挑戦したものの、できませんでした。 そこで考えたのが、現代語訳な…
プルーストの「失われた時を求めて」の読書がはかどらないので、集英社から出ている抄訳版で読んでみようと思いつきました。 改めてこの長編小説の読書に挑戦しています。 まずは、有名なマドレーヌの場面に行きついたので、じっくり読んでみました。 集英社…
明治の男はつらかったと思う。 鎌倉時代から数百年にわたって培われてきた武士道の美学と倫理、つまり禁欲と痩せ我慢があらゆる行動の指針になっているにもかかわらず、時代は確実に、金銭と欲望だけが支配する資本主義の方に進みつつあったからだ。つまり、…
迷える羊は誰に出会ったのか? インフルエンザから回復して美禰子に会いに行く三四郎。 本文は青空文庫から引用しました。 朝飯後、シャツを重ねて、外套《がいとう》を着て、寒くないようにして美禰子の家へ行った。玄関によし子が立って、今|沓脱《くつぬ…
原口さん宅を辞し、美禰子と二人になった三四郎。美禰子に気持ちを伝えますが、その結果はどうなったでしょうか? 本文は青空文庫から引用しました。 夕暮れには、まだ間《ま》があった。けれども美禰子は少し用があるから帰るという。三四郎も留められたが…
三四郎が、よし子と一緒に野々宮さんの下宿に行ったとき、野々宮さんから、よし子の見合い話が出ました。 翌日、三四郎は国から届いた金を持って学校に出て、与次郎から、美禰子が絵のモデルとして毎日通っている画家の原口さんの住所を聞き出します。 広田…
美禰子から金を借りた後の三四郎について見ていきます。 「精養軒の会」(広田先生の後援会のようなもの)に参加した帰り 与次郎からの話です。 本文は青空文庫から引用しました。 「笑わないで、よく考えてみろ。おれが金を返さなければこそ、君が美禰子さ…
美禰子に誘われて、展覧会についてきた三四郎。絵のことがわからず、美禰子と会話にならない中、決定的な出来事が起こります。 ここは「三四郎」の最大の山場ではないでしょうか。 本文は青空文庫から引用しました。 それでも好悪《こうお》はある。買っても…
美禰子の家を辞し、付いて出てきた美禰子と当てもなく歩く三四郎。 本文は青空文庫から引用しました。 二人は半町ほど無言のまま連れだって来た。そのあいだ三四郎はしじゅう美禰子の事を考えている。この女はわがままに育ったに違いない。それから家庭にい…
いよいよ美禰子宅を訪問する三四郎です。 少し長くなりますが、二人の距離が縮まるのか、離れるのか、最大の山場なので、じっくり読んでいきましょう。 本文は青空文庫から引用しました。 翌日はさいわい教師が二人欠席して、昼からの授業が休みになった。下…
三四郎は、与次郎に頼まれて金を貸します。 与次郎が、広田先生から預かった、野々宮さんに返す予定の金を競馬で摩ってしまったからです。 与次郎は金策の結果、美禰子に金を借りることになりましたが、美禰子がつけた条件は、三四郎が金を受け取りに来るこ…
広田先生宅訪問 美禰子にとらわれている三四郎ですが、三四郎の頭の中では美禰子をどう見ているのかを整理してみましょう。 そうすることで、美禰子との関係の問題点がはっきりとすると思われます。 本文は、青空文庫から引用しました。 三四郎は近ごろ女に…
大学の運動会を見に出かけた三四郎。見学に来ている美禰子に合うことを期待しています。 審判をしている野々宮さんと談笑する美禰子を遠目に見て、おもしろくないと思って会場から離れます。 そして、美禰子とよし子の目につくように姿を見せた三四郎は、す…
美禰子の本心をつかめるチャンスを逃した三四郎。美禰子の言った「STRAY SHEEP」の意味が分からず、とまどうばかりでした。 そんな三四郎の元に美禰子から絵はがきが届きます。 それには、二匹の羊と、大きな男が立っている絵が描かれていました。男は獰猛な…
いよいよストレイシープの登場です。「迷える子」を美禰子はどんな意味で言ったのでしょうか。 「三四郎」最大の謎を考えてみました。 本文は青空文庫から引用しました。 美禰子に誘われて三四郎は、広田先生、野々宮兄妹と五人で菊人形を見に出かけます。 …
STRAY SHEEPの謎を考える中で、よし子という存在が気になります。 女性に慎重な三四郎が、よし子のことは最初から全肯定なのです。 疑ったり、考え込んだりすることなく、よし子を素直に受け入れて、まるで母親のように感じるのです。 よし子に始めて出会う…
引っ越しの手伝いで、美禰子と心が通うようになった三四郎。 広田先生の本を片付ける場面では、二人が恋人同士のようにいちゃつく、ほほえましい様子が描かれています。 本文は青空文庫から引用しました。 美禰子と三四郎が戸口で本をそろえると、それを与次…
美禰子の身体の描写を指摘しておきます。これまでは肌の色と目だけでした。 本文は青空文庫から引用しました。 女は白足袋《しろたび》のまま砂だらけの椽側へ上がった。歩くと細い足のあとができる。袂から白い前だれを出して帯の上から締めた。その前だれ…
美禰子に急接近 広田先生の引っ越しを手伝う三四郎と美禰子 二人が急接近する場面です。 三四郎の態度を考察します。 本文は青空文庫 から引用しました。 そのうち そのうち高等学校で天長節の式の始まるベルが鳴りだした。三四郎はベルを聞きながら九時がき…
美禰子と三四郎の出会いⅡ(美禰子と再会する) 美禰子の容姿と行動について見ていきます。 本文は青空文庫から引用しました。 美禰子との再会 美禰子の容姿 美禰子の行動 美禰子との会話 三四郎の行動 これまでの流れ 美禰子との再会 野々宮さんに頼まれて、…
美禰子と三四郎の出会い 「三四郎」本文は、青空文庫から引用しました。 三四郎が初めて野々宮さんを理科大学に訪ねていった帰り、池の畔で孤独を感じていると、 活動の激しい東京を見たためだろうか。あるいは――三四郎はこの時赤くなった。汽車で乗り合わし…
今回は「三四郎」の山場(?)のひとつ、女と宿屋に同宿する場面です。 前回見たように、女と話す機会を失った三四郎ですが、今度は女から話しかけられます。三四郎の対応に注目しましょう。 www.bluesoyaji.com 宿屋での女 1及び腰になって、顔を三四郎のそ…
夏目漱石「三四郎」を読んで考えたことを書いていきます。 今なぜ、漱石「三四郎」なのかというと、米津玄師さんの新譜のタイトルが「STREY SHEEP」だからです。 ストレイシープと言えば、漱石、三四郎。 この世界が大変な中で、米津さんが、なぜ「ストレイ…