阿部公彦「文章は『形』から読む」 集英社新書より
学習指導要領を読む を読み、考えをまとめてみました
「論理国語」論争
社会から「社会に出たときに接するような文章」をもっと扱えという声が高まり、駐車場の契約書、著作権についての法律の条文が例として示される
新学習指導要領で「論理国語」論争が起こる
「論理国語」ー「社会に出たときに接するような文章」を国語教育に取り入れる科目
これは「論理的な文章」や「実用的な文章」を中心に、文学的な文章を排除するもの
生徒は文学作品に接する機会が減るー批判
筆者は
「論理的なもの」と「文学的なもの」と分けられるのか
行政との認識のずれがある
「学習指導要領」の印象
引用
共通必履修科目により育成された資質・能力を基盤とし、主として「思考力・判断力・表現力等」の創造的・論理的思考の側面の力を育成する科目として、実社会において必要となる、論理的に書いたり批判的に読んだりする資質・能力の育成を重視して新設した選択科目である。
(高等学校学習指導要領 解説 国語編)
・余計な色がついていない
・ストレートで単純明快
・無味乾燥だが、必要なことは伝わる
「実社会において必要となる」文章の特徴を備える
筆者の批判
透明で明晰か
文章がどのように語られるかという表現形式
・内容が列挙的、箇条書き的にならべられている
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複数の語がセットになって出てくる
「資質・能力」「思考力・判断力・表現力等」「創造的・論理的思考の」
「論理的に書いたり批判的に読んだりする」
連用形が多用される
「を基盤とし」「を重視して」
・一本調子に文章が進む
・文言の重複がある
なぜこのような形をとるか
・様々な会議での討議や行政的な手続きなどがあり、その「まとめ」として書かれている |
漏れのなさ、「たしかに言ったからな」という一種のアリバイ作り
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効果
「どうだ、言うことを聞け」と言わんばかり、君臨し、規定し、従属を命ずる構えが見え隠れする
・立派な文言のオンパレードを続けると、残念ながら文章としてはひどく内容が空疎な、こけおどしのようなものに見えてしまう
・「思考力」「判断力」「論理的」といったことばは、いかにも論理的風情を漂わせているように見えるが、こうした語彙を用いさえすれば明晰な、論理的な議論ができるとは限らない
・「君臨の論理」が先に立ちすぎ、「説明の論理」「伝達の論理」がなおざりにされている・必要な文言をもれなく盛り込みアリバイを完成させることが何より大事、読み手を説得しようなどとは考えていない
・「資質」「論理」「思考」がくりかえされることで、かえって読み手は注意を払わなくなる。力を失い、意味が希薄になる
まとめ
文章の「形」に注目すると、文章全体の背後にある意図や構えが見えてくる
・「実社会において必要となる」文章を読むためには、文学作品を読むことで鍛えられるような「形」への意識が必要だ
・誤っていたのは「論理的な文章」「実用的な文章」といった概念そのものだ
・「形があらかじめある文章」と「形が毎日新しく提案・更新される文章」という線引きをするべきだ
・「形」に興味を持つことを通して、文章一般とのつきあい方も深まる
なお、本書には、「本章のまとめ」もあります。要旨の確認に役立ちます。
次に、私が考えたことを書きます。
「論理国語」と「文学国語」について
論理国語と文学国語に分けられたのは、現場の国語教師の意見を取り入れず、上から新指導要領として下りてきたという印象があります。
「論理国語」の前段階として「現代の国語」を1年生で学ぶのが大半ですが、「現代の国語」で小説5作品を掲載した教科書が検定合格し、他の教科書会社から批判がわき起こりました。あいまいな検定基準が問題になったのです。
また、「論理国語」の教科書に文学作品を掲載した2社が検定に合格しています。
そもそも論理国語と文学国語に厳密に分けることに無理があり、この方針も今後見直されるでしょう。
なお、大学入学共通テストの2025年度では、国語の大問が1問増えます。その内容は「実用的な文章」になる予定です。
新学習指導要領で学んだ高校生が受けることになります。
新学習指導要領は、国語教師だけでなく、全国の高校生に大きな影響を与えています。
大きな改革にはなじみにくい国語科の科目の特性に対して、無理矢理「実用的な文章」という概念を導入したことで、得られるものと失われるものを吟味して対応する力が教師にも高校生にも求められています。