共通テストが予定通り実施されることになりました。
休校期間が長かったので、受験生のみなさんは特に、共通テストへの不安や心配が強いと思います。
そこで、高校の国語教師が問題を解いてみました。少しでも参考になれば幸いです。
試行問題は、大学入試センターが公表しています。リンク先はこちら
第1問の記述は見送られたので、第2問、評論にあたる問題を解きました。
資料Ⅰと資料Ⅱ、文章の3つを読ませる問題です。
ここでは、文章を取り上げ、段落の要旨をまとめました。文頭の番号は、本文につけられた番号です。
1著作者は最初の作品を実体に載せて発表する。これを「原作品」と呼ぶ。
2著作権法は、原作品に存在するエッセンスを引き出して「著作物」と定義する。
それは記録メディアからはがされた記号列である。
著作権の対象は原作品ではなく、記号列としての著作物である。
3著作権法の対象は(記号列としての)著作物だが、物理的な実体へと及ぶ。
4著作物は、原作品が壊されても盗まれても存続する。
5著作物は、テキストに限っても、多様な姿に及ぶ。
表1の定義に最も適合するのは叙情詩、なじみにくいものが理工系論文、新聞記事になる。これらは表1から排除される要素を多く含む。
6著作権法の著作物の定義は叙情詩をモデルにしたものである。著作権の扱いや侵害の有無も叙情詩モデルを通している。
7だが、無方式主義の原則があるため、著作権法は叙情詩モデルでは排除されるようなものまで著作物として認めることになる。
8叙情詩モデルの意味を確かめるため、特性を表2として示す。
9表2はテキストについて表1を再構成したもの。叙情詩型のテキストの特徴は、私が自分の価値として一回的な対象を主観的に表現したもの。理工系論文は、誰かが万人の価値として普遍的な対象を客観的に着想や論理や事実を示すもの。
10叙情詩型のテキストは、表現の希少性が高く、著作物性は高い。
11(理工系論文は)著作物性は低く、著作権法のコントロール外へはじき出される。
このテキストの価値は内容にある。それは着想、論理、事実、アルゴリズム、発見である。
12多くのテキストは、叙情詩と理工系論文とのスペクタルのうえにある。
13表2からどんなテキストでも「表現」と「内容」とを二重に持っているといえる。著作権法は、前者に注目し、表現の持つ価値の程度によって、その記号列が著作物であるか否かを判断するものである。
14著作権法は、テキストの表現の希少性に注目し、それが際立つものほど、濃い著作権を持つと判断する。
15著作物に対する操作は、著作権に関係するものを著作権の「利用」と言う。多様な手段があり、まとめると表3になる。
16表3以外の操作を著作物の「使用」と呼ぶ。これには著作権法ははたらかない。
17使用のなかには、書物の閲覧、建築への居住、プログラムの実行が含まれる。
18 著作権法は「利用/使用の二分法」も設けている。これがないと、コントロールが過剰になり、正常な社会生活まで抑圧してしまう。
出典は、名和小太郎
『著作権2.0 ウェブ時代の文化発展をめざして』NTT出版ライブラリーレゾナント 2010年
いかんせん、10年前の本なので、著作権法の最新の情報ではなく、あくまで著作権法の概念を扱ったものです。読んでみて、少し古さを感じます。
文体も生硬で、今の高校生には読みづらい文章です。続きを読んでみたいとは思いませんでした。
逆に、出来具合に差を付ける入試問題としてはふさわしいのかも知れません。
では、問1漢字から。本文の傍線部と同じ漢字を含む選択肢から選ぶスタイル。
合致、適合、両端、閲覧、過剰
どれも難しくはありません。全問正解できるはずです。
問2傍線A「記録メディアから剥がされた記号列」とはどういうものか、資料Ⅱを踏まえて考えられる例を選ぶ、というもの。
資料Ⅱは、著作権法の抜き出しです。
複数の資料を読ませて考えさせるという共通テストのお約束問題です。
文章の2段落から、「エッセンス」、「記号列としての著作物」
資料Ⅱ第二条一から「思想又は感情を創作的に表現したもの」
これらに注目して選択肢を見ると、4「作曲家が音楽作品を通じて創作的に表現した思想や感情。」が正解だとわかります。
問3 【文章】における著作権法の説明として適切なものを選ぶ。
選択肢を吟味していきます。
①「利用」が、「使用」の間違いです。15段落から。これはX。
②11段落で、外へはじき出されるとあるが、7段落で無方式主義の原則があり、除外されるとはいえないので、X。
③14段で二分法の考えが示されているが、訴訟では、より叙情詩型なのか、より理工系論文型なのかの判断によって決められるとある。相対的なものなので、「明確な判断を下す」がX。
④著作物性という考え方は10段、11段で説明されている。それを踏まえると、遺伝子のDNA配列も保護できるがX。
⑤13段落14段落の内容から〇。
選択肢の微妙な言い回しを判断しなければいけない点がやや難しい。
とにかく、本文から根拠になる部分をしっかり探すこと。
問4 「表2は、具体的な著作物ーテキストーについて、表1を再構成したものである」とあるが、その説明として適切なものを選ぶ。
資料Ⅰ、資料Ⅱがある上に、文章の中に表1、表2、表3が加わるのは、ややこしすぎや!
どれだけ複数資料好きやねん!との突っ込みを入れながら解きました。
「これが文科省の目指す、新しい国語の姿なのか(心の中)」
さて、気を取り直して、選択肢の吟味を。
表2は、9段、10段、11段、12段の要旨を見ると、著作物性の程度を示したものと考えられます。相対的な尺度、もの差しのようなものといえます。
①「排除されるもの」の定義をより明確にしている、がX。
②二つの特性を含むものを著作物とするがX。
③著作物の多様な類型を網羅するがX。
④5段落から表1の説明は〇。表2の説明も「著作物性の濃淡」とあるので〇。
⑤類似性がXですね。
問5 表現の説明として適当でないものを選ぶ。はい、よくあるケアレスミスに注意しましょう。「適当でないもの」に傍線を引いておきす。自分の脳に、しっかりと認識させましょう。
①「ー」は直前の語句を強調し、主張に注釈を加える働きを持つとあるが、これがX。
「ー」の後は、記録メディア、複製物など、直前のものの具体例です。したがってこの①が正解です。
後の吟味は省略します。
そもそも、この「文章」には表現の特徴を問うような要素は少ないです。冒頭で言いましたが、生硬な文章なので、表現の豊かさはありません。
無理矢理問題を作った感じがします。
受験生は、限られた時間内で、②以降の選択肢の内容も吟味することになるので、はっきり言うと無駄な問題です。
問6 資料Ⅰの空欄にあてはまるものを3つ選ぶ。ここで資料Ⅱを読み、第三十八条が関係していることに注目します。
②楽団の営利を目的としていない演奏会であること、は「営利を目的とせず」と合致するので〇。
④観客から一切の料金を徴収しないこと、は「聴衆又は観衆から料金を受けない場合は」と合致するので〇。
⑥演奏を行う楽団に報酬が支払われないこと、は「実演家~に対し報酬が支払われる場合は、この限りではない(上演できないの意味)」なので、〇。
この設問は簡単です。もっと資料Ⅱのあちこちを探さないと解けないのかと思いましたが、そうではありませんでした。作問上の制限から、こんなに簡単になったのだと思われます。
まとめ
解いてみたみなさんは、出来具合はどうでしたか?
時間制限がある中でこの問題内容であれば、かなり難しいと思います。
論理的な思考力ではなく、資料を渉猟する眼力(本当の視力)が必要な問題です。
どこに何が書いてあったのかを見やすく印し付けをすることが必要ですね。
新学習指導要領を先取りした問題が、なぜ今の高校生たちに出題されるのか大いに疑問ですが、「論理国語」と聞いても、そんなに心配しなくてよいと思います。
なぜなら、論理力を求められているのではなく、情報処理力を求める問題だからです。
複数の資料を読み解き、関連性のある問題に対する解答を発見する、これは、まさに情報処理能力そのものです。
いくつかこの手の問題を解き慣れていく必要はあります。そうすることで、情報の処理パターンが身につくと思います。それで共通テストを乗り切れるなら、たいしたことないではありませんか。
今回は、著作権法の理解という題材でしたが、これが、たとえば、ラグビーのルールブックだったり、ロールプレイングゲームの設定だったりしても同じなのです。
ルールを理解し、それをある場面設定では、どう適合させるか、それと同じ力を問われているように思います。
スポーツやゲームのルールなら、高校生のみなさんはお手の物ですね。
共通テストは、それと同じ頭の使い方を求めるものと言ってよいでしょう。
恐れる必要はありません。
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