共通テスト国語 第1問 評論を解いてみました。
問題文は毎日新聞などでpdfファイルを見ることができます。
以下は画像です。
文章Ⅰ「食べることの哲学」檜垣立哉
形式段落に通し番号を付け、要旨をまとめました
1「食べる」ことと「生」にまつわる議論
動物も人間も、自然のなかでの生き物としてまったく対等な位相にたってしまう
2宮沢賢治「よだかの星」は擬人化がなされ、その感情は人間的
よだかはみなからいじめられ、孤立してしまう
なぜ自分は生きているのか
鷹から自分の存在そのものを否定される
3しかし、よだかは羽虫や甲虫を食べてしまう
なぜ自分のような存在が劣等感を持ちながらも他の生き物を食べて生きていくのか、わからない
4引用(僕は 飢ゑて死なう 遠くの遠くの空の向かふに行ってしまはう)
5羽虫や甲虫を食べることは、食物連鎖上やむをえないこと
よだかは生のどこかに困難を抱えていて、次第に他の生き物を殺して食べるという事実の問いに転化
自分も鷹に食べられる、それなら絶食し、空の彼方に消えてしまおうというはなしに転変
6よだかは最後の力を振り絞り、燃え尽きることで自己の行為を昇華
7食べるという主題ではなく、むしろどうして生きつづけなければならないのかということ
そして無意識に羽虫や甲虫を咀嚼してしまう自分に「せなかがぞっとした」思い
8主題は食べないことの選択つまり断食
9食物連鎖からの解放だけではなく、むしろよだかが羽虫を食べる行為を無意識のうちになしていることに気づき「せなかがぞっとした」思いをもつこと
大変おもしろい文章です。取り上げた宮沢賢治の「よだかの星」が秀逸ですね。これは仏教の影響が強い内容です。我が身を捨てることにより、苦悩からの解放、すなわち悟りが得られるという思想です。未読の人は、一読しておきましょう。
文章Ⅱ 「食べるとはどういうことか」藤原辰史
1豚肉(あなた)は口に運ばれ、食道を通って胃袋に入り、十二指腸、小腸を旅するあいだ、消化、分解され吸収され、大腸にたどり着く
2大腸では微生物が繊維を発酵させ、便となって肛門からトイレ、下水へ旅をする
3食べ物は時間をかけて徐々に変わっていく。どこまでが食べ物か決めるのは難しい
4二つの見方
5一つ目、人間は「食べて」などいない。食べ物は、口に入る前はすべて生きものであり、人間を通過しているに過ぎない。人間は生命の循環の通過点に過ぎない
6二つ目、循環のプロセスと捉えること。食べものは、次の生きものに生を与えるバトンリレーであり、ずっと食べものであるということ
7二つは似ているところがある
これもおもしろい文章です。表現がユニークで、軽妙な?印象を与えます。受験生は読みやすかったでしょう。
では、設問を見ていきましょう。
問Ⅰ ⅰ漢字
ア 過剰 1 冗長 2 剰余 3 浄化 4 常軌 2が正解
イ 傷 1勧奨 2 鑑賞 3 感傷 4 緩衝 3が正解 これは訓読を音読で探すパターンです。簡単でした。
エ 遂 1類推 2粋 3麻酔 4完遂 4が正解
ⅱ異なる意味を持つもの
ウ 襲い 1夜襲 2世襲 3奇襲 4来襲 2が正解
オ 与える 1給与 2贈与 3関与 4授与 3が正解
漢字、語意は簡単でした。
問2「よだかの思考の展開」をどう捉えているか。
5段落から、「自分の生のどこかに困難を抱えていて、」「他の生き物を殺して食べているという事実の問い」、「自分は何も食べず絶食し、空の彼方へ消えてしまおう」の部分に注目する。
これは選択肢1の「生きる意味が見いだせないままに羽虫や甲虫を殺して食べていることに苦悩し」「現実の世界から消えてしまおうと考える」にそれぞれ対応しているので、正解は1。
2は境遇を悲観し、彼方の世界へ旅立とうが×
3は弱肉強食の関係を嫌悪し、不条理な世界を拒絶しようが×
4は自分の存在自体が疑わしいもとのとなり、新しい世界を目指そうと考えるが×
5は矛盾を解消できず、遠くの世界で再生しようと考えるが×
読解ができていれば、難しくない問題です。
問3「われわれすべてが共有するものではないか」とはどういうことか。
傍線部Bの直前の「それは」が指すのは、「それでもなお羽虫を食べるという行為を無意識のうちになしていることに気がつき「せなかがぞっとした」思いをもつ」こと。
2番に「意図せずに他者の命を奪って生きていることに気づき」、「強烈な違和感を覚える」とある。これが言い換えになっているので、正解。
1はいつか犠牲になるかもしれないと気づき、自己の無力さに落胆するが×
3は他者の生命に依存していたことに気づき、自己を変えようと覚悟するが×
4は自己の罪深さに動揺するが×
5は知らないまま弱肉強食の世界を支える存在であった、自己の身勝手さに絶望が×
7段にも同じ根拠があるので、気づきやすいでしょう。
問4 「二つとも似ているところ」とあるが、どういう点で似ているのか。
5段と6段の要旨から、「生命の循環の通過点」という認識が共通しています。
2には「別の生きものへの命の受け渡し」という表現があるので、これが正解。
他の選択肢には「生命の循環」という認識がないので×
5段6段の要旨が読み取れていれば難しくありません。
問5 文章Ⅱの表現に関する説明
まったく抵抗できぬまま、たっぷりかけられ、舌になぶられ、わずかな分身に別れを告げ、トイレの中へダイビング、旅をしますなど、比喩(擬人法)の多用と軽妙な説明が特徴でしょう。
この二つの要素に触れている4が正解。
1は心情を印象的に表現が×
2は消化酵素と微生物とが共同して食べものを分解する様子を比喩的に表現が×
3は擬態語を用いて表現が×
5は誇張して表現することで、消化の複雑な過程を鮮明に描いているが×
集中力を切らさずに選択肢を吟味しましょう。
問6 新傾向の設問が最後に出てきました。これがないと、文章Ⅰと文章Ⅱを組み合わせて読ませた意味がないので、必須問題というところでしょうか。
ⅰ空欄Xに入る最も適当なもの
これは消去法でいきます。
1は一般論×
2は文章Ⅰの9段に「食べるという行為を無意識のうちになしている」とあったので、これが根拠で正解。
3は2の正反対なので×
4は文章Ⅰの9段に「食物連鎖からの解放という事態だけをとりだすのではない」とあるので×。ひっかけ選択肢ですね。
ⅱ空欄Yに入る最も適当なもの
これも消去法です。
1は他者の犠牲によってもたらされるよだかの苦悩、自他の生を昇華させる行為は、地球全体の生命活動を円滑に動かすために欠かせない要素が×
2はよだかが飢えて死のうとすることは、生命が本質的には食べてなどいないという指摘に通じるが×
3は地球全体の生命活動を循環させる重要な意味がある、生命がもっている生きることへの衝動(食べる)こそが、循環のプロセスを成り立たせているとあるので正解。
4は食べることによって生じる順列が不可欠であるが×
選択肢がややわかりにくいですね。集中力を切らさずに慎重に吟味しましょう。(時間があれば…)
まとめ
文章が二つ、それぞれの分量は少ないです。問1から問5までがそれぞれの文章について単独の設問です。問6のみ、二つの文章を関連させた設問となっています。
受験生にとっては、一文の文章量が少なくなり、読みやすかったかもしれません。しかし、深い論理の展開を読解し、思考するという力は問えない設問形式になってしまったと思います。深い論理の展開には、やはりある程度の文章の長さが必要になります。
その意味で、情報処理能力は測ることができる問題ではあったと言えるでしょう。
また別の視点から一つ。
文章Ⅰは評論文で宮沢賢治の小説「よだかの星」を取り上げたものです。これは今年の4月から実施される新学習指導要領で設定された「論理国語」と「文学国語」の区分けに抵触する問題があります。
「論理国語」では文学作品を扱わないという国の指針は、高校現場に大きな波紋を投げかけました。ところが、文章Ⅰでは、文学作品の中にも論理性があることをはからずも示したことになっています。
そもそも、文学と論理とを分けるという発想自体が間違っています。
来年度はさらにどのような問題が出題されるか注目していきます。