小説
「紙の動物園」ケン・リュウ ハヤカワ文庫 電車の中で読まないでください 涙が止まらなくなるからヒューゴー賞・ネビュラ賞・世界幻想文学大賞 3冠に輝いた「紙の動物園」胸を打ち心を揺さぶる短編集と文庫の帯に書いてあります。 また大げさなコピーだと思…
「続ものがたり風土記」 阿刀田高 集英社文庫 前回この記事で紹介した「ものがたり風土記」がたいへんおもしろく、すぐに読了したので、続編も読み始めました。 平衡感覚(岩手2)では宮沢賢治の「鹿踊りのはじまり」が紹介されています。原作を読むと、これ…
ものがたり風土記 阿刀田高 集英社文庫 筆者が、文学に詳しい「市さん」とふたりで各地を巡り、その地に関わる物語について対話しながら考察するという形式で書かれている。 ふたりはまるで芭蕉と曾良の旅を思わせる。 筆者と市さんの博識と推理が興味深く、…
来年(2022年度)の高校一年生からは、全員タブレットを使うことになっています。 私が今年の四月から担当している一年生は、全員タブレットを導入しています。 授業でタブレットを活用するために、授業用シートを作りました。 教材は、国語総合の現代文…
光文社古典新訳文庫 高遠弘美訳 そして、私の思考も、そんな椅子に似た揺籃のようなものではなかったか?外界で生起することを眺める場合でも、私はその中にどっぷりと身を沈めているー私はそう感じた。外界の事物を見ているとき、自分がそれを見ているという…
健人が優奈を連れてきた翌週の土曜日は、珍しく健人も家に居て、三人で晩御飯を食べていた。 健人は頼みがあると言って、話を切り出した。 「優奈を連れてきたあと、優菜が朱莉に嫉妬して酷いねん。タイプやろとか、一緒に住んでたら好きになるとか色々言っ…
健人には優奈と言うかわいい彼女がいる。健人と同じようにモデルをやりながら、お芝居の勉強をしている。女優の卵といえばいいのか、しかし、少しも気取ったところがなくて、邦裕とも気さくに話しをする感じのよい子だ。健人とは、モデルの仕事を通じて知り…
朱莉が来て三日目の夜のこと。 邦裕が自分の部屋で、明日が提出期限の課題をやっていると、風呂場から「ぎゃーっ」と言う叫び声が聞こえてきた。朱莉の入っている時間だ。 不審者が侵入したのだろうか、助けないとと思い、慌てて風呂場に駆け込むと、また、…
高校二年生が始まった日、朱莉は突然、邦裕と健人の住む家にやって来た。 邦裕と健人は、三宅さんの所有するシェアハウスに住んでいる。そこから高校に通っている。 邦裕は小学校六年生の時、突然両親が死んでしまい、叔父に引き取られて、二人で暮らしてい…
今年2021年の京都大学の入試問題に出題された石川淳「すだれ越し」がおもしろかったので、石川淳が読みたくなり、まず「山桜」を読んでみました。 これがとてもおもしろい小説だったので、紹介します。 石川淳「山桜」 構成を見ましょう。 金を借りに行った…
コメディあるいはトラジティ 中央芝生で 中央芝生の縁で寝転んでいた常二は、時計台の上に広がる青空と雲の群れを眺めていた。 二回生に進級して、近づくゴールデンウィークをどんなアルバイトをしてしのごうかと思案をしているのである。 故郷の母が営む商…
長編小説で読了が難しい作品と言えば、「失われた時を求めて」ですが、我が国の傑作古典「源氏物語」も読了が難しいです。 www.bluesoyaji.com 長年、国語教師をしていますが、何度も読了に挑戦したものの、できませんでした。 そこで考えたのが、現代語訳な…
プルーストの「失われた時を求めて」の読書がはかどらないので、集英社から出ている抄訳版で読んでみようと思いつきました。 改めてこの長編小説の読書に挑戦しています。 まずは、有名なマドレーヌの場面に行きついたので、じっくり読んでみました。 集英社…
共通テスト第2日程 国語 第2問小説「サキの忘れ物」 本文の読解 登場人物は主人公「千春」と常連客の「女の人」が中心で、ほんの少しだけ店長とアルバイトの菊田さんが終盤に登場する。 千春と女の人の会話も、複雑な内容ではなく、量も少ないのでつかみやす…
大学入学共通テスト 国語第2問 小説 「羽織と時計」加能作次郎 問題へのリンクはこちら(毎日新聞) https://mainichi.jp/exam/kyotsu-2021/q/?sub=NTL この小説が発表された1918年は大正7年。第1次世界大戦の終了年です(大戦の開始は1914年)。…
購入したのは、Mac mini本体のみで、純正のマウス、キーボードを購入しなかったので、初期設定をする段階で、文字入力する方法がないことに直面しました。 しばらく途方に暮れて画面を見つめます。 これは、子供にUSB接続のキーボードを借りて、なんとか設定…
明治の男はつらかったと思う。 鎌倉時代から数百年にわたって培われてきた武士道の美学と倫理、つまり禁欲と痩せ我慢があらゆる行動の指針になっているにもかかわらず、時代は確実に、金銭と欲望だけが支配する資本主義の方に進みつつあったからだ。つまり、…
迷える羊は誰に出会ったのか? インフルエンザから回復して美禰子に会いに行く三四郎。 本文は青空文庫から引用しました。 朝飯後、シャツを重ねて、外套《がいとう》を着て、寒くないようにして美禰子の家へ行った。玄関によし子が立って、今|沓脱《くつぬ…
原口さん宅を辞し、美禰子と二人になった三四郎。美禰子に気持ちを伝えますが、その結果はどうなったでしょうか? 本文は青空文庫から引用しました。 夕暮れには、まだ間《ま》があった。けれども美禰子は少し用があるから帰るという。三四郎も留められたが…
三四郎が、よし子と一緒に野々宮さんの下宿に行ったとき、野々宮さんから、よし子の見合い話が出ました。 翌日、三四郎は国から届いた金を持って学校に出て、与次郎から、美禰子が絵のモデルとして毎日通っている画家の原口さんの住所を聞き出します。 広田…
美禰子から金を借りた後の三四郎について見ていきます。 「精養軒の会」(広田先生の後援会のようなもの)に参加した帰り 与次郎からの話です。 本文は青空文庫から引用しました。 「笑わないで、よく考えてみろ。おれが金を返さなければこそ、君が美禰子さ…
美禰子に誘われて、展覧会についてきた三四郎。絵のことがわからず、美禰子と会話にならない中、決定的な出来事が起こります。 ここは「三四郎」の最大の山場ではないでしょうか。 本文は青空文庫から引用しました。 それでも好悪《こうお》はある。買っても…
美禰子の家を辞し、付いて出てきた美禰子と当てもなく歩く三四郎。 本文は青空文庫から引用しました。 二人は半町ほど無言のまま連れだって来た。そのあいだ三四郎はしじゅう美禰子の事を考えている。この女はわがままに育ったに違いない。それから家庭にい…
いよいよ美禰子宅を訪問する三四郎です。 少し長くなりますが、二人の距離が縮まるのか、離れるのか、最大の山場なので、じっくり読んでいきましょう。 本文は青空文庫から引用しました。 翌日はさいわい教師が二人欠席して、昼からの授業が休みになった。下…
三四郎は、与次郎に頼まれて金を貸します。 与次郎が、広田先生から預かった、野々宮さんに返す予定の金を競馬で摩ってしまったからです。 与次郎は金策の結果、美禰子に金を借りることになりましたが、美禰子がつけた条件は、三四郎が金を受け取りに来るこ…
広田先生宅訪問 美禰子にとらわれている三四郎ですが、三四郎の頭の中では美禰子をどう見ているのかを整理してみましょう。 そうすることで、美禰子との関係の問題点がはっきりとすると思われます。 本文は、青空文庫から引用しました。 三四郎は近ごろ女に…
大学の運動会を見に出かけた三四郎。見学に来ている美禰子に合うことを期待しています。 審判をしている野々宮さんと談笑する美禰子を遠目に見て、おもしろくないと思って会場から離れます。 そして、美禰子とよし子の目につくように姿を見せた三四郎は、す…
美禰子の本心をつかめるチャンスを逃した三四郎。美禰子の言った「STRAY SHEEP」の意味が分からず、とまどうばかりでした。 そんな三四郎の元に美禰子から絵はがきが届きます。 それには、二匹の羊と、大きな男が立っている絵が描かれていました。男は獰猛な…
いよいよストレイシープの登場です。「迷える子」を美禰子はどんな意味で言ったのでしょうか。 「三四郎」最大の謎を考えてみました。 本文は青空文庫から引用しました。 美禰子に誘われて三四郎は、広田先生、野々宮兄妹と五人で菊人形を見に出かけます。 …
STRAY SHEEPの謎を考える中で、よし子という存在が気になります。 女性に慎重な三四郎が、よし子のことは最初から全肯定なのです。 疑ったり、考え込んだりすることなく、よし子を素直に受け入れて、まるで母親のように感じるのです。 よし子に始めて出会う…