高校二年生が始まった日、朱莉は突然、邦裕と健人の住む家にやって来た。
邦裕と健人は、三宅さんの所有するシェアハウスに住んでいる。そこから高校に通っている。
邦裕は小学校六年生の時、突然両親が死んでしまい、叔父に引き取られて、二人で暮らしていた。中二の時に、叔父が結婚することになり、ここに来た。
健人は裕福な家で、何自由なく過ごしてきたが、モデル業と芝居に夢中になり、親と衝突して実家を離れ、ここで一人暮らしをしている。
邦裕と健人は一緒に暮らして二年になる。大きな喧嘩もなく、仲良くやってきた。
そこへ、突然、朱莉が加入することになった。
三宅さんに連れられてやって来たのは、今日、同じクラスになったばかりの朱莉だった。
学年一の美人との評判で、しかも成績優秀、しっかり者ときている。
邦裕は、なぜ、朱莉がここに来たのだろうと思った。お互い事情は詮索しないのが邦裕たちのルールなので、彼女に直接聞くことはしない。事情よりも大切なのは、うまく同居をやっていくことだ。健人とは同性同士だったからやって来れたが、一人っ子だった邦裕には、女子と暮らすのははじめてだ。健人は彼女がいるので、女子のことはよくわかっているのが頼りだ。
こんなことは、後から思ったことで、朱莉が三宅さんとリビングに入って来たときには、邦裕は、驚いてしばらく思考が停止してしまった。
朱莉は、邦裕を見るなり、大きな目をさらに見開いて、
「あら、海城くん、ここに住んでるの?」
信じられないという顔で口を開けている邦裕の顔を眺める。
「今日からよろしくね」
そう言って白い歯を見せた。
邦裕の頭の中は現実感を失ったままだ。
三宅さんは、
「海城くん、今日からここで、一緒に住んでもらう、高島朱莉さん。仲良くしてあげてな」
その言葉に我に返る。
「もちろんです。僕たち、同じクラスなんです」
「そうか、それなら安心だ。健人くんにも、帰ったら、よろしく言っといてくれ」
「わかりました」
「部屋は二階の奥を使ってもらう」
「男子二人に女子が一人では、やりにくいかもしれんが、ゆずりあって気持ちよく暮らしてほしい」
三宅さんはそう言うと、朱莉を連れて二階へ行った。
三宅さんが帰った後、リビングで邦裕と朱莉が話していると、健人が帰ってきた。
「こちらが長澤健人。僕らと同じ高二で、大阪の高校に行ってる」
「健人、今日からここで暮らすことになった高島朱莉さん。同級生なんよ」
邦裕が二人を紹介した。朱莉は健人を見るなり、大きな目をさらに見開いて、「カッコいい」とつぶやいた。邦裕はすかさず、「あかんよ、彼女がいてるから」と注意した。
健人は、「よろしく。仲良くやろうね」と言って、椅子に腰を下ろしながら、
「朱莉さんみたいにかわいい人は大歓迎」爽やかな笑顔を向けた。
「調子に乗って」邦裕が言うと、朱莉は満更でもない表情を浮かべている。
「ねえ、決まり事とかあるの?」
「自分の食器は自分で洗う、冷蔵庫に入れるものには名前を書く、洗濯物は自分で干して自分で入れる、トイレと風呂の掃除は順番で、共有スペース、リビングには、私物を置きっぱなしにしない、くらいかな」
「お金の貸し借り禁止もあるよ」健人が付け足す。
「そうそう、パンツはよく邦裕のを借りてるけどな」
「あれはやめてや」邦裕が突っ込むと、
「パンツは除外や」と健人が答える。
朱莉は笑顔でスルーする。