大学入試の現代文を取り上げ、読解方法や設問の解法を解説します。
受験生が読んでおもしろいと思える内容の本文、なんらかの知的な学びがある本文を選びました。
読んでもさっぱりわからない、まったく興味を引かれない本文では、勉強のやる気が起こりません。
結構、そういう問題文が多いのが今の大学入試の問題点の一つだと思います。
複数史料を読ませるのもいいけれど、その中身がスカスカの文章では、つまらなく、やってられない…
今回の佐伯啓思「経済成長主義への決別」は、とてもいい文章です。
内容も当然ですが、論理の展開が特にすばらしい。受験生だけでなく、論理的な文章を読む力をつけたい人にも、ぜひ一読をおすすめします。
私が勤める学校の高3生の夏期補習で取り上げた問題です。
同志社大学 法・グローバル 2018年度 佐伯啓思 「経済成長主義への訣別」
本文の要旨をまとめました。
・グローバル資本主義は人間の欲望を解放することが幸福につながると考える。キリスト教の持つ普遍的救済の焼き直しである。西洋文化の根底にある拡張と普遍性を求める意思がグローバリズムを生み出した。
・ しかし人は歴史的に与えられた自然環境や世界や精神的性向の中で生きるほかない。その中で安寧をえ、快適性を感受しようとする。
・グローバリズムや情報網の世界的な拡張を受け止めると同時に小規模な地域、組織、場、集団、仕事を保持しなければならない。 共感があり、相互に信頼でき、相手の性格や事情を了解できる組織や集団を作れない社会では、人々は神経をすり減らし、創造性に欠け、仕事への責任感を持てなくなる。
・拡張と進歩の価値に囚われない「そこそこ」で自足し、「足を知る」原理が必要となる
本文分析
本文を理解するために必要な語句を抜き出しました。
番号は形式段落のものです。
2グローバリズム
3ユートピア
15スミス アダム・スミス「道徳感情論」経済学の父
16シューマッハー ドイツ生まれ、イギリスの経済学者「スモールイズビューティフル」でエネルギー危機を予告
18ヘーゲル ドイツの哲学者 観念論、弁証法 「精神現象学」
21トゥクヴィル フランスの思想家、政治家
設問の解説と解答
一「強調している」につながるもの
1眉に唾つけてー騙されないように用心する
2目を見開いてー目を大きく開いて
3鼻を高くしてー得意になって
4口を酸っぱくしてー忠告など同じことを何度も繰り返して
5舌を巻いてー感心したり驚き呆れたりする
二
ア直前「様々な形とサイズの」ーいろいろなもの
イ直前「世界中に同じところで生産される」ー同じようなもの
ア多様性 イ標準的 2が正解
三「この変化」11段「西洋近代社会は~信じたのである」
「幸福の条件」2段「物的に裕福になるもののみが幸福になる」
2が正解
四「人間存在の基本的な条件」=「人間というものは、小さな、理解の届く集団の中でこそ人間でありうる」
12段「常に出会い、常に傍らにあるモノや人や場所~知るだろう」
3が正解
五「適切な組織」とは
15段「『共感』のうちに自然と道徳心が生じるのが地域共同体」
16段「地域コミュニティは、確かにグローバリズムに対抗する『数多くの小規模単位を扱えるような構造』」
17段「組織や集団においてもまた」「相互に信頼できる仲間があって」
18段「組織と仕事は、人々の道徳性の母体にもなる」
2が正解
六 4、6、8が正解
七
22段 最大化を目指すのではなく、 「そこそこ」で満足する精神、「足るを知る」の原理
解答例
適切な規模の集団の中で、最大化ではなく、自足することを覚えるべきだと考えている。
問題を解く時間は気にせずに、じっくりと読解をしましょう。
グローバリズムを批判した筆者の考えが理解できて、現代社会を見る新たな視点がえられます。