こんなにおもしろい大学入試評論文、見たことない
まるで短編小説のおもむきです 関西学院大学 文 2020 加藤尚武「かたち」の哲学
形式段落に通し番号をふりました。
本文の要旨です。
1自分の顔を客観的に判断することはできない
4駅の鏡に映るみすぼらしい男の姿を一瞬自分と思わないで見ていた
6恋人のあやめは姉のかきつばたと双子の姉妹である
12私には二人の見分けがつかない
14ブリダンの驢馬は、二つのまったくおなじ干し草の山の真ん中にいる驢馬は飢えて死ぬという話
16ショーペンハウエルはどちらを選んでもいいと反論した
18結婚は、見分けがつかないからどちらを選んでも好いというわけにいかない
19問題は、存在として違う人間が認識としては違いがないという、存在と認識の不一致である
22違う存在が同じ形を持つということは、存在と形とが不可分でありながら、形が存在とは分離できるという形の本性による
23姿というものは、その本体から抜け出して、存在とは別のものになってしまう
本文分析
6スタンダール フランスの小説家
ザルツブルクの小枝 「恋愛論」恋愛によってその対象を美化させてしまう心理
ザルツブルクの塩坑で枯れ枝を投げ込み、二三か月すると、輝かしい結晶におおわれてダイヤモンドで飾られたように見えることから
8ラファエル前派 19世紀中ごろイギリスで活躍した美術家、評論家のグループ
象徴主義美術の先駆 明治時代日本にも紹介され、影響を与えた 夏目漱石 「オフィーリア」
15万葉集「ママノテコナ」 真間の手児奈(古)
16ショーペンハウエル ドイツの哲学者 ニーチェやワーグナーに影響を与えた
21パスカル フランスの哲学者 「パンセ」 人間は考える葦である
設問の解説と解答です。
問一
a方針 イ辛酸 ロ羅針盤 ハ森羅万象 二虚心坦懐 ホ神妙
b偏見 イ編隊 ロ偏屈 ハ唐変木 二片鱗 ホ遍歴
c予期 イ発揮 ロ起死回生 ハ画期的 二数奇 ホ綱紀粛正
d模様 イ最寄り ロ繁茂 ハ曖昧模糊 二水面 ホ喪中
問二 e由緒 f次第 g過程
問三 自分の顔を客観的に見ることが不可能ではない
例は3段、4段
駅の鏡に映る「みすぼらしい男の姿」ー自分だと思わないで自分の姿を見ていたはず
二が正解
問四 「晴れがましくもない」
「晴れがましい」ー多くの人から祝福され、光栄に思う気持ち
イが正解
問五 直前の「ザルツブルクの小枝」がわからなくても「自分の恋人だから美しい」から考える
正解「あばたもえくぼ」ー好意をもって見ると欠点までが美点に見えること
問六 展覧会場で妹あやめと思われた姉の気持ちは
「すばらしい記憶力」には「一種の暗い影のようなものがつきまとっていた」ので、「当てつけ」か「皮肉」
「鼓舞」と「恨み」では「恨み」が適切
ホが正解
問七 14段と15段から「どちらを食べるわけにもいかなくて」「どちらを選ぶこともできずに」とある
ホが正解
問八 16段ブリダンは選択にはかならず何かの理由や原因があるという前提
ショーペンハウエルは選択に遺留が必要という前提そのものを疑う立場
イロハはブリタン、ニホヘはショーペンハウエル
「どちらでも好いという気持ち」はショーペンハウエル
へが正解
問九 「甲しないで」手当たり次第に干し草を食べればいい
「結果を気にしないで」の意ークヨクヨが正解
「胸に乙とくる重し」ー「重し」ズシンが正解
問十 19段Ⅲの直後「存在として違う人が認識としては違いがないという存在と認識の不一致」
存在として違う人ー別人格、姉と妹
認識としては違いがないー外見が同じ
二が正解
問十一 19段傍線部⑤の直後「常識」に注目する
20段「われわれの常識的な世界は」の直後が正解
問十二
イ5段、6段から×
ロ記述なし×
ハ「形」の根本問題が×
二どんな「存在」でもその「形」の違いを見分けられる×
ホ22段「形が存在とは分離できるという形の本性」とあるので正解
解いてみて、どうでしたか?
大学入試で、「あやめとかきつばた」のエピソードを読まされると、おかしくて解いている途中に笑ってしまいそうです。まるで短編小説みたいですね。
ただ、「存在と形」という哲学の話題なので、このエピソードをちゃんと後半の論考につなげられるかが大事です。
頭が固い人には手ごわい問題だったかもしれません。
さすが関学ですね!文章選択のセンスがいい。共通テストも見習ってほしいです。