2021年度 大学入学共通テスト 国語 第1問 評論
出典『江戸の妖怪革命』香川雅信
問題へのリンクです。(毎日新聞)
https://mainichi.jp/exam/kyotsu-2021/q/?sub=NTL
第1問の段落の要旨をまとめました。
1フィクション、娯楽の対象としての妖怪が生まれた背景は
2フィクションの世界に属する存在としては近世中期から
3妖怪は日常的理解を超えた不可思議な現象に意味を与えるもの
日常的な因果了解で説明できない現象ー不安と恐怖を喚起
なんとか意味体系の中に回収するため生み出された文化的装置が妖怪
4リアリティを帯びた存在ーフィクションとしての妖怪は生まれない
5妖怪に対する認識の変容とその歴史的背景は
6フーコーの「アルケオロジー」を援用する
7知の枠組みの変容ー一つの枠組み(エピステーメー)を通して事物の秩序を見る
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時代とともに変容する
8フーコーのエピステーメーの変貌ー物、言葉、記号、人間ー関係性による
9(10)アルケオロジーの方法で日本の妖怪観の変容を見る
11中世ー妖怪は凶兆ー神秘的存在からの警告(言葉)、一種の記号
12近世ー物そのものとしてあらわれる
博物学的な思考、嗜好の対象に
13記号ー人間が作り出せるものに
神霊の支配から人間のコントロール下に
記号=表象
14表象ー名前、視覚的形象による弁別=キャラクター
リアリティの喪失、フィクショナルな存在、人間の娯楽の題材へ
15近代ーリアリティのなかに回帰する
16人間の絶対性に懐疑
人間ー容易に妖怪を見てしまう不安定な存在、コントロール不可能な内面を抱えた存在
妖怪ーフィクショナルな存在から人間の内部に棲みつく
17私という思想ー謎めいた内面を抱え込む
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私は不気味なもの、未知なる可能性を秘めた神秘的な存在
妖怪は私を投影した存在
18以上がアルケオロジー的方法による妖怪観の変容
設問を解説します。
問1 漢字問題
(ア)ミンゾクー民俗 「民族」ではないので注意。ただし他の選択肢に「族」を使う字はない
(イ)カンキー喚起 選択肢4「交換」の「換」と間違えないこと
(ウ)エンヨウー援用 この語を知らないとできないかも。学問するには必須の語。「先行の論文を援用する」
(エ)(オ)は簡単でしょう
問2 傍線部Aの後に「そうした存在だった」と続く。傍線部の前の部分、3段落の内容で考える。
1 「理解を超えた不可思議な現象に意味を与え」、「日常世界のなかに導き入れる」=「意味の体系のなかに回収する」の言い換えなので、これが正解。
2 「フィクションの領域においてとらえなおす」が×
3「目の前の出来事から予測される未来への不安」が×
4「リアリティを改めて人間に気づかせる」が×
5「危機を人間の心に生み出す」が× 紛らわしいが、危機を生み出す現象を妖怪とした
・3段落の読み取りができていれば、簡単です。
問3 フーコーのアルケオロジーを援用するので、その説明をしている部分です。ある意味「複数資料」的な設問です。
関連する7、8、9段落のうち、7段を吟味しましょう。
1「考古学の方法に倣い」が×
2 7段落「事物のあいだに何らかの関係性をうち立てるある一つの枠組みを通して、はじめて事物の秩序を認識することができる」とある。この部分のまとめが選択肢の前半。「この枠組みがエピステーメーであり、しかもこれは時代とともに変容する」のまとめが選択肢後半。したがってこれが正解。
3 「要素ごとに分類して整理し直す」が×
4 「同じ認識の平面上でとらえる」が×
5 「大きな世界史的変動として描き出す」が×
・選択肢は言い換えではなく、まとめになっているので簡単です。
問4 妖怪の「表象」化について、12、13、14段落を読みましょう。
神霊から人間のつくるものへー「記号」から「表象」へー「物」そのものとしてあらわれるーキャラクター化―架空の存在、娯楽に
この流れをつかむ。
1「人間が人間を戒めるための道具になった」が×
2「神霊の働きを告げる記号」から「人間が約束事のなかで作り出す記号」になり=13段落、「架空の存在として楽しむ対象」=フィクショナルな存在として人間の娯楽の題材へ とあるので、これが正解
3 「人間世界に実在するかのように」が× 「リアリティを喪失」とある
4 「あらゆる局面や物に及ぶきっかけ」が× 「帰結である」とある
5 「人間の性質を戯画的に形象した娯楽の題材」が× 本文になし。
・段落要旨をしっかりつかんでいれば難しくない。
問5 これは新傾向の設問です。「ノートを作る」というアイデアは予想問題集などにもない形でしょう。作問の工夫がうかがえます。
(ⅰ)(ⅱ)は段落要旨を参考にして解きましょう。
(ⅰ)同じ内容の選択肢は印をつけておく。2段落「歴史性を帯びたもの」、5段落「認識がどのように変容したのか。そしてそれは、いかなる歴史的背景から生じたのか」とあるので、4が正解。
・文章構成を考えさせる問い。段落要旨をつかんでいれば簡単です。
(ⅱ)
Ⅲ 近世は12、13、14段落を見る。14段落「視覚的形象によって弁別される」「キャラクターであった」とあるので3が正解。1「恐怖を感じさせる」が×。2「神霊からの言葉を伝える記号」が×。4「人を化かす」が×。
Ⅳ 近代は15、16、17段落を見る。16段落「内面というコントロール不可能な部分を抱えた存在」とあるので、正解は4。1「合理的な思考をする」が×。2「自立した」が×。3「万物の霊長」が×。
・これも選択肢が短く単純なので簡単です。
(ⅲ)は小説「歯車」芥川龍之介の引用と考察です。複数の資料問題の新たなバリエーションです。
17段落の内容―「私」は私にとって「不気味なもの」、「未知なる可能性を秘めた神秘的な存在」
ノート3の内容―「仕合わせにも僕自身に見えたことはなかった」、「死はあるいは僕よりも第二の僕に来るのかもしれなかった」、「ドッベルゲンガーを見たものは死ぬ」
1「別の僕の行動によって自分が周囲から承認されているのだ」が×。
2「ひとまず安心」、「もう一人の自分に死が訪れるのではないか」、「自分自身を統御できない不安定な存在であること」いずれも○。したがってこれが正解。
3「会いたいと思っていた人の前に別の僕が姿を現していた」が×。
4「自分が分身に乗っ取られるかもしれないという不安」が×。
5「他人にうわさされることに困惑していた」が×。
・段落と引用の要旨を踏まえて、選択肢のあら探しをする。簡単です。
第1問の感想
・複数資料と言われていたため、グラフや図表の多用を想定していた人は、肩すかしを食らったかもしれません。
・試行テストで不評だった「契約書」「生徒同士の話し合い」が出題されませんでした。その分、最近のセンター試験の傾向を延長したような印象を受けました。
・対策としては、段落要旨をまとめる練習をする、新書レベルで幅広く読書をするなどがおすすめです。