bluesoyaji’s blog

定年後の趣味、大学入試問題の分析、国語の勉強方法、化石採集、鉱物採集、文学、読書、音楽など。高校生や受験生のみなさん、シニア世代で趣味をお探しのみなさんのお役に立てばうれしいです。

高校教師が解いてみた 2021年 早稲田大学法学部 国語 第3問 今福龍太『宮沢賢治 デクノボーの叡知』

コロナ禍での大学入試が行われている中、2021年の早稲田大学の問題が興味深かったので、解いてみました。 

第3問 今福龍太『宮沢賢治 デクノボーの叡知』からの出題です。

 

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形式段落に通し番号をつけると、8段落になります。

それぞれの段落で、重要と思われる部分を抜き出しました。

読解の参考にしてください。

そして、設問への解き方を簡単に解説しました。参考にしてください。

 

各段落の重要箇所

 

1〜3は筆者の体験と考察
4〜8はフォークナーの小説「熊」の考察

1野生の熊に出くわした体験ーカナダと北海道
 恐ろしい獣への畏怖というよりは、むしろ不思議な昂ぶりのような感覚
 自らが失ってしまった「野生」との繋がりを深い記憶の底からさぐりだし、かつてありえた森羅万象との「一体化」の夢を熊に託していた
 人間の本源的な感覚意識の重要な部分に触れてくる、特別の喚起力をもった生き物


2人里に現れる熊の増加ー奥山と里山との関係の変化
 人の気配がなくなった中山間地域に警戒心を解いた熊が出入りするようになった
 「害獣」として認識されるようにさえなってしまい
 aを持続してきた人類の長い歴史が、いま大きな転換期にある


3人間にとってどのような存在だったのか
 人間が、おのれの自然的存在の根源について思考しようとしたときに現れるものが熊であったとすれば、熊を害獣として、あるいは危険生物として撃退するような発想は、人間という存在の本質をも否定してしまうことにつながりかねない


4ウィリアム・フォークナーの小説「熊」
 狩猟を通じて行われる一人の若者の精神形成を描いた、謙虚さと勇気の獲得をめぐる「教養小説」の姿をとっていますが、ほんとうは野生動物と人間とのあいだの深い交感と厳格な掟をめぐる哲学的な主題を持った作品なのではないか


5少年は、近代的な搾取者としての猟師であることから離れ、より深い自然との融合の場へと参入していく


6熊が死ぬと人も死ぬ。それは、つまり原生林の掟の中で生きる生命すべてが、連続した一つの命脈によってつながっていることを示唆しています。
自他融合の中の高次の理法を知ること
知らず知らず人間中心主義に染まった道徳観念を打ち立ててしまった私たち


7太古からの自然の摂理、この「森の掟」についての物語


8「古の野生」そのものの不可侵にして深遠な存在が、暗示されています
しかし、…「破砕と破壊の回廊」のなかを凶暴な獣として駆け抜けるほかなかったのです。
アイク少年は、…破壊の歴史を、インディアンと黒人という虐げられた者たちが持つ深い叡知を通じて、自らの内面においてすでに抱き取っていたのでした。

 

設問を見ていきます

問十三 漢字の書き取り
A峡谷 「狭い」と間違いやすい
B火急 火が燃え上広がるように急なこと

Bの火急がわかりにくいかもしれません。

 

問十四 「釘付けになった」の意味
 「目が」とセットで「目が釘付けになる」となって、美しさに心が引かれる、の意味になります。

これは簡単。


問十五 「不思議な昂ぶりのような感覚」の説明
傍線部2の次の行に「自らが失ってしまった『野生』との繋がりを深い記憶の底からさぐりだし、かつてありえた森羅万象との『一体化』の夢を、熊に託していたのかもしれません」とあります。
これを踏まえると、
イは「自分もそうありたいというあこがれの気持ちを〜」が×
ロは「文明化する以前の人間の生の痕跡があることを実感し、」が○、「言い知れぬ喜びがこみ上げてきた」が「昂ぶりのような感覚」とも解釈できるので、これが正解。
ハは「信仰の対象ともなっていた」「満ち足りた思いを感じていた」が×
ニは「ふてぶてしさにたじろぎながらも」「その『熊』に立ち向かうために〜」が×
ホは「わが物顔に闊歩する『野生の熊』の荒々しい様子」が×

 

問十六 aにあてはまる語句
2段落では、奥山が生息域であった熊が、近年里山にえさを求めて出入りするようになった。人間は害獣とと見なすようになったとあります。これを踏まえて
イ深い共棲の関係が○
ロ都市と農村が×
ハ恩恵に依存するが×
ニ一方的に搾取が×
ホ信仰と文化が×

これも簡単。

 

問十七 「熊を害獣として、あるいは危険生物として撃退するような発想は、人間という存在の本質をも否定してしまうことにつながりかねない」について、人間と熊との関係の説明として適切でないものを二つ選ぶ。
イ「森の主」として、君臨し、恐れられた存在が×
ニ山間部の奥地にまで人間の開発の手が伸びたことで、熊たちは本来の生息地を奪われが×
ロ、ハ、ニはいずれも本文の記述と一致する。
したがって適切でないものはイ、ニが正解

 

問十八 b、cにあてはまる語句の組み合わせ
5段落 bを撃つことではなく、過去から伝えられた自然という大いなるcを受けとめようとするアイク。
こうして少年は、近代的な搾取者としての猟師であることから離れ、より深い自然との融合の場へと参入していくのです
とあります。これを踏まえて、
bに入るのは、イ、動物 ニ、獲物。cはイ資源は×、ニ遺産は○。したがってニが正解

 

問十九 「フォークナーが『熊』で描こうとした真のもの」の説明
イは「たった一人で『オールド・ベン』に立ち向かっていく様子を描くことで」が×
ロは「他ならぬ自らの手で葬り去ろうと決意していた」が×
ハは「近代文明との戦いに敗れ去っていく『オールド・ベン』の姿を見つめる」が×
ニは「自然と共に生きる世界を作り上げてきた先駆者たちの労苦を描くことで」が×
ホは「野生の中で生きる術を決定的に失った人間の悲劇が象徴的に表現された」が○。これが正解

 

問二十 問題文の構成や表現の説明
イは「自然環境に関する一般的な理解を否定する根拠として」が×
ロは「後半部で批判することにより」が×
ハは「表現を工夫しながら思考を深めていくさまを確認することができる」が×
ニは「文学的な想像力の広がりの方を優先することで」が×
ホは3段落「熊から人は何を学んできたのか。これらの問いは、いまこそ考えてみるに足るカキュウの問いであるように私には思われます」、4段落「ほんとうは野生動物と人間とのあいだの深い交感と厳格な掟をめぐる哲学的な主題」、8段落「原生の森もまた『時代錯誤』というべき人間たちの長年にわたる所業によって侵略され続け」などから、これが正解

ハが紛らわしい。

 

出典の『宮沢賢治 デクノボーの叡知』を調べてみると、次のホームページを見つけました。

 

「考える人」というサイト

「宮沢賢治の気流に吹かれて」という題名で

今福龍太×真木悠介の対談が掲載されています。

https://kangaeruhito.jp/interview/18624

この「考える人」というサイトは注目しておくといいでしょう。

大学入試の出題者は、このサイトから出典を選んでいるように思われるからです。

あくまで憶測です。