京都大学 前期 2020年 国語 第1問 「体験と告白」小川国夫
出典は随筆ですが、内容は文学評論です。
日本文学専攻の大学生でも、十分読み応えがある文章です。
設問は、文系は5問、理系は最後の第五問がなく4問です。
出典を探しましたが、簡単にはわかりませんでした。
ネットで検索してわかったのは、『雲間の星座』 冬樹社 1975 所収
初出は「潮」昭和47年10月号
ということでした。
カーリルで検索してもありません。入手しにくいようです。
形式段落の要旨をまとめてみました。通し番号は形式段落の番号です。
1或ることを証明するためにフィクションが必要
2言葉で事実を美化する→体験の真実を隠してしまう
理由―語る人が客観化に心を砕くからーリアリズムの感覚
3非真実を本当らしく語る
真実を知ろうとする人―言葉を剥ぎ取っていくこと、言葉の霧を透明化すること
↓
高度のリアリズム精神
4井原西鶴の作品のキーワードー真実よりつらきことはなし
5自分を見過ごした人間にとっても自信の弱点のつらさを知っている
ツルゲーネフー他人を有効に罵りたければ、自分の欠点を相手のこととして並べ立てればいい
人間は共通の過敏な粘膜がある
6願望―人間に共有な過敏な粘膜を包み隠したい意思
↓
リアリズム小説の第一の着眼点
7<あばく>ということ→人間はなぜ自分たちの弱点を書き、読むのか
↓
小説を書いたり読んだりするのが面白いから
8人間が人間に対して抱く興味の矛盾
アウグスチヌスー劇を見る人は他者をあわれむことを欲しているが、自分があわれであることは欲しない
劇が人の心をとらえるのは酔うため、あわれな自己を直視するのを避けるため
9トルストイの思想も似ているー自分の小説含め大部分の小説を否定せざるを得ない
10体験談からは現れてこない人間の真実をあらわにする方法がリアリズム小説
11リアリズム小説のもたらした結果―人生は一つの崩壊の過程にすぎないという結論
12人の世は意味を隠し持つーそれをあきらかにしたい
人生を形作っている要素―言葉、体験談
13鍵は体験談、告白という観念の識別、把握の仕方
長くはない文章で井原西鶴、ツルゲーネフ、アウグスチヌス、トルストイに言及しています。
受験生は、この4人について、ある程度の知識を持っていないとイメージがわきにくかったでしょうね。
また、リアリズム、私小説についても、知っているとわかりやすいかもしれません。
後半の11段落以降が少しわかりにくいと思います。
解答例は、河合塾、駿台、代ゼミのホームページに解答速報として掲示されています。
河合塾https://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/20/k01.html
解いてみて自分の解答は、盛り込む要素が不足していたり、言い換えや要約ができていなかったりで、やや難しく感じました。
面白いのは、河合塾、駿台、代ゼミで、かなり違いがあることです。
言い回しが難しめなもの、比較的本文の記述によったもの、解答の方向性が異なるものなど、個性的です。
受験生のみなさんは、各校の解答例文を見比べて、どこのが一番しっくりくるかを検討してみてください。それも大切な記述の勉強法です。
私は、駿台の解答が一番すっと入ってきました。
リアリズムや私小説については、深い知識もなかったので、この入試問題は新鮮でした。
来年から導入される共通テストの出題方針で示される、実用的な文章とは対極にありますね。
グラフや契約書、パンフレットばかり読んでいて読書を怠ると、この二次試験には手も足も出ないでしょう。
本当の意味の読解力、記述力が求められる良問だと思います。
京都大学を目指す受験生は、幅広い知識と教養を、読書を通じて身につけておきましょう。