bluesoyaji’s blog

定年後の趣味、大学入試問題の分析、国語の勉強方法、化石採集、鉱物採集、文学、読書、音楽など。高校生や受験生のみなさん、シニア世代で趣味をお探しのみなさんのお役に立てばうれしいです。

連載を始めました。「邦裕の孤愁 くにひろのこしゅう」第4話 偽装カップル誕生

 健人が優奈を連れてきた翌週の土曜日は、珍しく健人も家に居て、三人で晩御飯を食べていた。

 健人は頼みがあると言って、話を切り出した。

「優奈を連れてきたあと、優菜が朱莉に嫉妬して酷いねん。タイプやろとか、一緒に住んでたら好きになるとか色々言ってきて」

「健人のことが心配なんやろな」邦裕がそう言うと、

「お互い愛し合ってるんでしょ?」と朱莉が意味ありげに言う。

邦裕は、朱莉の太ももを膝で突いた。

ムッとした顔で見る朱莉を無視をして、健人の言葉を待つ。

「二人に頼みがある。朱莉には悪いんやけど、こいつと付き合ってることにしてくれへんかな?そうしたら優奈も安心して、あれこれ詮索しなくなると思うんや」

「付き合うって、この人と?無理やわそんなの」

「いやいや、優奈が来てる時だけ、付き合ってることにしてくれたらいいだけや」

「嫌なのに無理に付き合ってくれと言ってるのと違うで」

「嫌なのには余分ですけど」邦裕が口を挟む。

「ね、お願い。俺を助けると思って、あいつがきた時だけでいいから」

「そんなに頼まれたら、断りにくいやん」優菜は渋々返事をする。

「本当?ありがとう!助かるわ。このお礼は絶対させてもらうから」

「調子乗ったらあかんよ。手繋いだり、ボディタッチとか絶対せんといてね」

朱莉は邦裕に釘を刺した。

「するわけないでしょ。飢えた狼みたいに言わんといてほしいわ」

「俺には強固な意思と節欲があるのをわからせてやる」

「まあ、とにかく、あいつがくる時は二人はカップルということで、お願いするわ」

健人はそういうと安心した表情を浮かべた。

 

 朱莉が食器を片付けて二階の部屋に上がったあと、邦裕と健人はリビングに残り、話し込んだ。

「優奈の嫉妬もすごいけど、だんだんとあれを求めるのが激しくなって、ちょっと困ってるんや」

「あれって、優奈、そんなに絶倫なん?」

「この頃、一回や二回ではおさまらへん。何回も求められて、俺はクタクタになってしまう。底なしの性欲や」

「あんなかわいい顔して?」

「顔は関係ない。あいつには好色の傾向があるのやろな。その蓋を開けてしまったのは俺やけど」

「健人、実は最近、部屋に声が激しく漏れてくるねん」

「ほんまか。それは悪かった。あんな声聞かれたら、恥ずかしいわ」

「始まったらリビングに行って、聞かないようにしてる」

「それは知らんかった。気を使わせて悪かったな」

「あの最中って、あんな大きな声を出すもんなん?」

「あいつは特別や。みんながあんな声出すわけじゃない。とにかく、今度から気をつけるから、漏れて聞こえてたら後で言うてくれ」

「うん、わかった」

「それと朱莉に聞かれたら、やばいからな。あいつ、純情やから、きっとショックを受けると思う」

邦裕はもう手遅れだと思いながら、

「堅物だから、聞かれない方がいい」と答えておいた。

 

 翌週の週末に、優奈が泊まりにきて、持ってきたケーキを四人で食べた。

「お二人、つきあってたんやね、お似合いやわ」

優奈はケーキを食べながら、邦裕と朱莉に笑顔でそう言った。

「いつから、つきあってるの?」

「どれくらいになるかな?」と言いながら邦裕は朱莉に目で合図する。

「半年くらいかな。去年の秋くらいから」

「ヒロくんのどこが良かったの?」優奈はさらに尋ねてくる。

「うーん、見た目は好みじゃなかったけど、優しいところかな」

「ヒロくん、カッコいいやん、見た目も」優奈は優しい。

「じゃあヒロくんは?」

「この気の強いところと、ナイスな」

言いかけたところをテーブルの下で朱莉のキックが急所に当たる。

「うっ」暫し沈黙する。

「ナイスな?」

「ナイスな笑顔が」痛さを誤魔化してなんとか言えた。

「初めてのキスはどこで?」

「えーっと、風呂場で」

「風呂場で?いきなり?」

優奈が目を見開く。

「違うねん、風呂掃除をしてるときに、ムカデが出て、朱莉が悲鳴をあげて、俺が退治して、その時、朱莉が抱きついてたからつい

「ついしたの?」

「いやいや、そうじゃなくて、そのタイミングでって言うこと」

朱莉はよく言うよという顔をして聞いている。

「今度、一緒に遊びに行かない?」

「いいね、朱莉」邦裕がそう言うと、

「うんいいよ」と笑顔をつくって答えた。

 

 健人と優奈が部屋に入ると、残った朱莉は、

「わたし、ダブルデート、行かない」

「すぐに行こうって言ってるわけじゃないから、そんなに決めつけなくてもいいんじゃない?」

「そのうち、行きたくなるかもしれん」

「絶対、ないわ」

「その、白か黒かの二分は良くないよ、ほどほどに流すってやつも必要」

「なんでよ」不満そうな顔を見せる。

「朱莉は、完璧主義だから」

「自分にも厳しいけど、他人にはもっと厳しくない?特に、俺にたいして」

「あなたは言われるようなことするからでしょ」

「そう言う決めつけがなかったらなあ」

「決めつけじゃないでしょ」

「そこで、そう言う考えもあるわね、って言う余裕が欲しいな」

「心が狭くて残念ね」

「そら、またムキになる。そこが丸くなれば

「なんなのよ、言いなさいよ」

「言い寄る男が列をなすやろな」

「このままならモテないって言いたいの?」

「いやいや、誤解せんといて。今でも十分魅力的やけど、もうちょい、丸くなれば、さらに魅力が増すって言うことや」

「褒めてるのか貶してるのか分からんわ」

「貶してなんかない」

「どっちにしてもダブルデートはお断りやわ」

「まだ言うか。そんなに嫌なら、誘われたら自分で断りや」

「俺は健人を守るために賛成しただけや。それを利用して朱莉を口説こうとしてるんじゃないから」

邦裕は本当に腹が立った。