健人が優奈を連れてきた翌週の土曜日は、珍しく健人も家に居て、三人で晩御飯を食べていた。
健人は頼みがあると言って、話を切り出した。
「優奈を連れてきたあと、優菜が朱莉に嫉妬して酷いねん。タイプやろとか、一緒に住んでたら好きになるとか色々言ってきて」
「健人のことが心配なんやろな」邦裕がそう言うと、
「お互い愛し合ってるんでしょ?」と朱莉が意味ありげに言う。
邦裕は、朱莉の太ももを膝で突いた。
ムッとした顔で見る朱莉を無視をして、健人の言葉を待つ。
「二人に頼みがある。朱莉には悪いんやけど、こいつと付き合ってることにしてくれへんかな?そうしたら優奈も安心して、あれこれ詮索しなくなると思うんや」
「付き合うって、この人と?無理やわそんなの」
「いやいや、優奈が来てる時だけ、付き合ってることにしてくれたらいいだけや」
「嫌なのに無理に付き合ってくれと言ってるのと違うで」
「嫌なのには余分ですけど」邦裕が口を挟む。
「ね、お願い。俺を助けると思って、あいつがきた時だけでいいから」
「そんなに頼まれたら、断りにくいやん」優菜は渋々返事をする。
「本当?ありがとう!助かるわ。このお礼は絶対させてもらうから」
「調子乗ったらあかんよ。手繋いだり、ボディタッチとか絶対せんといてね」
朱莉は邦裕に釘を刺した。
「するわけないでしょ。飢えた狼みたいに言わんといてほしいわ」
「俺には強固な意思と節欲があるのをわからせてやる」
「まあ、とにかく、あいつがくる時は二人はカップルということで、お願いするわ」
健人はそういうと安心した表情を浮かべた。
朱莉が食器を片付けて二階の部屋に上がったあと、邦裕と健人はリビングに残り、話し込んだ。
「優奈の嫉妬もすごいけど、だんだんとあれを求めるのが激しくなって、ちょっと困ってるんや」
「あれって、優奈、そんなに絶倫なん?」
「この頃、一回や二回ではおさまらへん。何回も求められて、俺はクタクタになってしまう。底なしの性欲や」
「あんなかわいい顔して?」
「顔は関係ない。あいつには好色の傾向があるのやろな。その蓋を開けてしまったのは俺やけど」
「健人、実は最近、部屋に声が激しく漏れてくるねん」
「ほんまか。それは悪かった。あんな声聞かれたら、恥ずかしいわ」
「始まったらリビングに行って、聞かないようにしてる」
「それは知らんかった。気を使わせて悪かったな」
「あの最中って、あんな大きな声を出すもんなん?」
「あいつは特別や。みんながあんな声出すわけじゃない。とにかく、今度から気をつけるから、漏れて聞こえてたら後で言うてくれ」
「うん、わかった」
「それと朱莉に聞かれたら、やばいからな。あいつ、純情やから、きっとショックを受けると思う」
邦裕はもう手遅れだと思いながら、
「堅物だから、聞かれない方がいい」と答えておいた。
翌週の週末に、優奈が泊まりにきて、持ってきたケーキを四人で食べた。
「お二人、つきあってたんやね、お似合いやわ」
優奈はケーキを食べながら、邦裕と朱莉に笑顔でそう言った。
「いつから、つきあってるの?」
「どれくらいになるかな?」と言いながら邦裕は朱莉に目で合図する。
「半年くらいかな。去年の秋くらいから」
「ヒロくんのどこが良かったの?」優奈はさらに尋ねてくる。
「うーん、見た目は好みじゃなかったけど、優しいところかな」
「ヒロくん、カッコいいやん、見た目も」優奈は優しい。
「じゃあヒロくんは?」
「この気の強いところと、ナイスな」
言いかけたところをテーブルの下で朱莉のキックが急所に当たる。
「うっ…」暫し沈黙する。
「ナイスな?」
「ナイスな笑顔が…」痛さを誤魔化してなんとか言えた。
「初めてのキスはどこで?」
「えーっと、風呂場で」
「風呂場で?いきなり?」
優奈が目を見開く。
「違うねん、風呂掃除をしてるときに、ムカデが出て、朱莉が悲鳴をあげて、俺が退治して、その時、朱莉が抱きついてたからつい」
「ついしたの?」
「いやいや、そうじゃなくて、そのタイミングでって言うこと」
朱莉はよく言うよという顔をして聞いている。
「今度、一緒に遊びに行かない?」
「いいね、朱莉」邦裕がそう言うと、
「うんいいよ」と笑顔をつくって答えた。
健人と優奈が部屋に入ると、残った朱莉は、
「わたし、ダブルデート、行かない」
「すぐに行こうって言ってるわけじゃないから、そんなに決めつけなくてもいいんじゃない?」
「そのうち、行きたくなるかもしれん」
「絶対、ないわ」
「その、白か黒かの二分は良くないよ、ほどほどに流すってやつも必要」
「なんでよ」不満そうな顔を見せる。
「朱莉は、完璧主義だから」
「自分にも厳しいけど、他人にはもっと厳しくない?特に、俺にたいして」
「あなたは言われるようなことするからでしょ」
「そう言う決めつけがなかったらなあ」
「決めつけじゃないでしょ」
「そこで、そう言う考えもあるわね、って言う余裕が欲しいな」
「心が狭くて残念ね」
「そら、またムキになる。そこが丸くなれば…」
「なんなのよ、言いなさいよ」
「言い寄る男が列をなすやろな」
「このままならモテないって言いたいの?」
「いやいや、誤解せんといて。今でも十分魅力的やけど、もうちょい、丸くなれば、さらに魅力が増すって言うことや」
「褒めてるのか貶してるのか分からんわ」
「貶してなんかない」
「どっちにしてもダブルデートはお断りやわ」
「まだ言うか。そんなに嫌なら、誘われたら自分で断りや」
「俺は健人を守るために賛成しただけや。それを利用して朱莉を口説こうとしてるんじゃないから」
邦裕は本当に腹が立った。