bluesoyaji’s blog

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「点・千・面」隈研吾 同志社大学 全学日程文系 国語 2021年 おすすめの評論文です

同志社大学 全学日程文系 国語 2021年を解いてみました

出典「点・千・面」隈研吾

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段落分けをして、要旨をまとめました。

読解の参考にしてください。段落番号は私がつけました。

 
1ヴォリュームの解体
量塊を点・線・面へ、風通しをよくし人とすべてをつなぎ直したい
ヴォリュームとはコンクリート建築
二〇世紀は工業社会、コンクリートの時代であった
ポスト工業社会は木によって表象される社会
国立競技場ー小さな木のピースを組み上げて作る


2コンクリートの時代
コンクリートでインスタントに生成された大きく頑丈なヴォリュームに多くの人間を詰め込む−二〇世紀の基本的ライフスタイル
空調された不自然な密閉空間を幸福と錯覚
戦争と人口爆発ー大量の住宅が必要ー大きなヴォリュームの空間をスピーディに建設するのが時代の要請
コンクリートは商品化し私有を確定しやすい素材


3線の建築
日本の木造建築は線の建築
木材を組み上げ、その間を土壁、障子、襖で埋めて透明でフレキシブルな空間を作る
風通しがよく快適
ル・コルビジューコンクリート建築のチャンピオンは、桂離宮を嫌悪
ミース・ファン・デル・ローエは線の建築家
金属製サッシとガラスを組み合わせ超高層建築
線と面をあらかじめ工場で用意し現場で組み立てる
コンクリートよりもスピーディに大きなヴォリューム
筆者の批判
空間を効率的に閉じることだけ優先
日本の伝統建築のような点・線・面が浮遊する楽しさ、透け感がない
超高層ビルー牢獄にいるような感じ
コーリン・ロウ「実の透明性」「虚の透明性」
虚の透明性ーガラスを使わず、層状の空間構成で見えない空間を暗示する
イタリアのアンドレア・パラディオの建築を賛美
しかし日本の伝統木造建築は言及しなかった


4ヴォリュームから自由になる方法
カンディンスキー「点・線・面ー抽象芸術の基礎」
バウハウスの教育
筆者の高校時代の読書
退屈ー構成主義的思考、点・線・面を用いた分析
二〇世紀初頭の現象学の流れ
ジェームズ・ギブソンー構成という概念を拒絶、肌理を提唱
生物の心理、行動ー環境の構成ではなく、肌理によって決定される
科学的に分析
人間は点や線などの粒子がないと不安ー自分と世界とをつなぐことができない
環境とは点・線・面が作る肌理であると筆者が考えるきっかけ

 

解説

本文はA4サイズで6枚分。かなり長いので、内容で段落を設定して、その要旨をつかむことが必要です。また、人名が多く出てきます。それぞれどんな特徴があるのか、簡単なメモを余白にでも記入しておきましょう。
内容は、論理が明確で、評論文として優れた文章だと思います。入試問題というだけでなく、読解することで読み手の知識や視野が広がる、いい影響を受ける文章です。

単に難解なだけだったり、実用性ばかりを追求して中身の薄いものだったりする文章は、大学入試には不適切です。私はどんな入試問題を出しているかで、大学の知的なレベルがわかると考えています。


さて、設問を解いていきましょう。

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(一)空欄に入る語句を選ぶ問題。
aは「絵画に関する〜な議論、テキスト」が少なく、「数学的タイポロジー(類型学)に吸い寄せられた」とあるので、2の科学的が正解
bは「すべての絵画論が〜でウェットであったことに不満を感じ」とあるので、5の主観的が正解」
簡単です。


(二)これも空欄に入る語句を選ぶ問題。慣用表現です。
アは読後感がおもしろくなかった理由を述べているので、4の鼻についたが正解。
イは現象学が科学を目指しながら、具体的な方法を見出すことができないまま、どうなったかということなので、3の下火になったが正解
これも簡単ですね。


(三)「二〇世紀はコンクリートに時代となった」の説明
問題文2ページの内容を踏まえると正解は4です。
1は人々の幸福を拡大させたが×
2は曖昧さを排除することが人々の幸福であると定義されたが×
3は開放感にあふれたいろいろな種類の幸福があった時代が×
5は隙間を丁寧に埋めていくコンクリートが×


(四)「線の建築」の説明
この設問は要注意です。傍線部B「日本の木造建築は線の建築である」とあるのに対して、「線の建築」の説明を求めています。
「線の建築」は日本の木造建築だけでなく(選択肢1)、ミース・ファン・デル・ローエも「線の建築」家であると筆者は述べています。この説明は4です。
傍線部Bの説明なら正解は1ですが、「線の建築」だけなら4も正解になるという混乱が生じます。
傍線部B全体で考えて1が正解ということでしょう。
2は人々に嫌悪感を与える煩雑な空間が×
3ははっきりと周辺から切断された私有の空間が×
5は組み合わせが原型となった、ガラス張りの超高層建築のような素朴な構成が×
これはとまどう設問です。


(五)「虚の透明性」の説明
コーリン・ロウの提唱した「実の透明性」と「虚の透明性」についての記述は、次の箇所です。
ガラスを使わなくても、層状の空間構成によって、背後に存在する、実際には見えない空間を暗示する方法を、彼は「虚の透明性」と呼び、高く評価した。
1はガラス至上主義に陥った日本建築の透明感が×
2は襖や障子の併用によって醸し出される透明感が気になるが、ロウが日本建築に言及しなかった点は考えに入れずに、広く考えるとこれが正解
3はガラスが使われるはるか以前から存在した知的な構成が、二〇世紀のモダニズム建築で再現されたが×
4襖や障子を使って外光を仄かに受け入れてつくりだされた、十二単のようなが×
5はガラスで作れば透け感があるという単純素朴な考えによって作られたが×


(六)本文の内容に合致するもの二つ
1と5が正解
2はミースが金属製サッシとガラスでの建築なので×
3はバウハウスの教育方法は後に否定されが×
4は人々にさまざまな心理的効果をもたらしたが×
6は逆。アフォーダンス理論の登場で疑似心理学的議論は色あせたので×


(七)「『コンクリートから木へ』が生涯のテーマだと、僕はずっと考え続けてきた」について、「コンクリートから木へ」を説明
「自分のやっていることを一言でまとめると」とあります。冒頭の3行を用いて解答を作成しましょう。
これに気づけば、簡単ですね。

 

感想

東京オリンピック、パラリンピックのために立てられて国立競技場を設計した隈研吾さんの著書からの引用です。


二月末現在で、オリンピックができるのかどうか不透明ですが、どうであれ、国立競技場が興味深い建築であることが、この問題を解いていてわかりました。
建築の世界も深いですね。それに気づかせてくれたよい入試問題と思います。


ちなみにこの出典も、ホームページで取り上げられていました。
リンクはこちらです。
https://realsound.jp/book/2020/05/post-551281.html
隈研吾が語る、20世紀的な建築からの脱却 「新しい時間の捉え方が必要なのかも」

 

大学入試の出題者は、話題になっている本をネットで探す傾向があるようです。受験生のみなさんは注目しておきましょう。