bluesoyaji’s blog

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現実主義と無常感の両立へ 21世紀の感染症と文明 山崎正和 を読んで考えた

現実主義と無常感の両立へ

21世紀の感染症と文明 山崎正和 を読んで考えた

 

第4章 最終章です。

現実主義と無常感の両立へ

23日本人の美徳が国難に勝ち、無事に最終局面を迎えられるかはわからない。コロナの後に、どんな世界を残さねばならないかが課題である。


24 十四世紀のペスト流行の結果、西洋社会は封建時代の終わりを準備した。人口減により、労働生産性を高めて産業近代化への道を開いた。
同じ程度の変化が起こるとは考えがたい。世界は緊急の問題を抱えていることが暴露された。


25それはグローバル化である。これがコロナの防御に何の役にも立たなかったことは明白だ。民衆を守ったのは国家であり、自衛のために一国主義的に働く国家である。


26今後の人類はグローバル化の暴走に慎重になり、巨大グローバル企業に批判的になるだろう。


27国家が急ぐべきことは、未来世代との平等問題であり、巨大な借財の処理である。そのためには思い切った所得税改革や海底資源の国有化もよいだろう。


28現実の課題以上に重大なのは、国民の世界観の転換だろう。現代は疫病が社会を揺るがすことはないという通念が近代的な傲慢にすぎなかったことを思い知らされた。


29現代も古代や中世に直結しており、文明の進歩と呼べる飛躍はなかった。人類は、文明を進歩させるという迷信は諦めるべきだ。


30今後の日本人は、このように考えを改めるだろうし、そうあってほしいのが私の願いだ。今回の経験が、伝統的な日本の世界観、無常感の復活に繋がってほしい。
無常感は健全な思想であり、感傷的な虚無主義ではない。現実変革に知恵と技を発揮しながら、それを無常と見明きらめる醒めた感受性である。


31「いろは歌」を通じて学んだ真実が今、共有されつつある。

 

感想

グローバル化が後退するのは、その通りだと思います。

ある種の鎖国が、この21世紀に行われるとは想像すらできませんでした。

 

大学や高校などの教育現場でも、グローバル化は絶対的な命題になっていた感がありました。

その見直しがどの程度まで行われるのか、全く予想できません。

 

経済の対策も、未来の世代への責任として必要でしょう。しかし、日本近海のレアアース採掘者に高額税をという提言は、首をかしげました。採算が取れないでしょうから。

 

さて、今回の論文の眼目は、28~31です。

近代的な世界観、進歩主義は迷信であり諦めるべきだという主張は、ある意味、過激です。

そして、今後の私たち日本人は、無常感を持つべきだと説きます。

 

その無常感とは、30段にあるように、「現実変革に知恵と技を発揮しながら、それを無常と見明きらめる醒めた感受性である」というものです。

この章のタイトルが「現実主義と無常感の両立へ」とあるとおりです。

最後に31段で、それは「いろは歌」の精神であることが示されています。

 

ウィキペディアによると、「いろは歌」は、「いろは歌を記した文献としては最古とされる『金光明最勝王経音義』(こんこうみょうさいしょうおうきょうおんぎ)は、承暦3年(1079年)の成立であることから、いろは歌は10世紀末から11世紀中葉までの間に成立したものとみられる。」とあります。

 

仏教的無常観が「いろは歌」の根本であることがわかります。

これを現代の私たちが学ぶ機会を考えてみると、中学校か高校で、古文を学ぶときに、かなの成立や歴史的仮名遣いの学びとして、接することがほとんどです。

精神の中味まで深く学ぶ機会は、少ないのです、

 

「仏教的無常観」は「方丈記」や「徒然草」などの古文で触れることがありますが、「いろは歌」を通じて学んだ真実とまでは、言えないのではないでしょうか。

 

近代社会をくつがえすような感染症の流行に対し、中世以来の無常感で乗り越えるという山崎先生の論考は、非常にユニークであり、示唆に富むものです。

 

ただ、一点の異を唱えるならば、「仏教」という語を用いていないところにあります。

中世以来の仏教的無常観が「いろは歌」のベースであるのは、先に見たとおりです。

山崎先生は、あえて「仏教」という言葉を使わなかったのでしょうか。

さらに、現代は、無常観を学ぶ機会がほとんどないことも考慮しなければなりません。

 

逆に、この「21世紀の感染症と文明」を読むことで、無常感に注目し、新たに学ぶ人が増える効果があるともいえるでしょう。