2017年 京都大学 入試問題 国語 理系
「私」をつくる 近代小説の試み
岩波新書(新赤版) 1572
2015年11月20日第1刷発行
著者 安藤宏
問題文は第3章「あなた」をつくる からの引用で、二葉亭四迷が話し言葉で小説を書くことを迷っていたというエピソードに続く部分である。
夏目漱石、森鴎外、田山花袋の名前が出てきても驚かないだろうが、岩野泡鳴って誰?と思った受験生は多かっただろう。
「パラドックス」という語が設問部分に含まれている。
評論の基礎用語なので、要注意だ。
要約
「言文一致体」の「正確さ」について、日常の出来事をありのままに描写するのにふさわしいと考えられた。だがおかしなことでは?
口語はきわめて主観的なもの。当時は、最も客観的で細密と信じられた。写実主義の浸透で、言文一致体の矛盾と面白さがあった。
田山花袋の「平面描写」論は、代表的なものだ。
客観を尊重するため話者の「私」(主観)を隠すことで、叙述に空白が生まれ、読者の想像が入り込むことになった。→パラドックス
一方、岩野泡鳴の「一元描写論」では、一人の人物の視点に立ち、その判断で統一を図れという主張である。
さらにおしつめると「顔」の見える「私」を表に出すことに行き着く。これを実践したのが「白樺派」である。
なお、分析や模範解答は、河合塾のサイトで出るでしょうから、そちらを参考にして下さい。
http://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/17/
著者あとがきから引用する。
日本の近代小説を、内側からの必然にそって、そこに自ずと働く"文法"のようなものを明らかにしてみたい、それによって初めて「名作」が「名作」であるゆえん(普遍性)もまた明らかになるのではないか、と考えてみたのである。
この本は、大変興味深い内容だが、専門性の高いものだと感じた。
大学で近代文学を専攻している学生向きかなと思っていたが、まさか大学入試、しかも理系にこの文章を出題するとは…
理系の学生にも人文科学の教養を求めているということだろう。
じっくり読み直したい方や読んでみたい方は、以下を参考にして下さい。
「私」をつくる―近代小説の試み (岩波新書)