bluesoyaji’s blog

定年後の趣味、大学入試問題の分析、国語の勉強方法、化石採集、鉱物採集、文学、読書、音楽など。高校生や受験生のみなさん、シニア世代で趣味をお探しのみなさんのお役に立てばうれしいです。

「『夕暮れに夜明けの歌をー文学を探しにロシアに行く』奈倉有里」京都大学文系国語第1問を解く

京都大学 前期文系国語 第一問を解いてみました。

記述問題の解法を説明します。参考になれば幸いです。

なお、河合塾の解答速報と駿台予備校の解答速報を参考にさせてもらいました。

先にこれらのサイトで模範解答を閲覧してから読んでもらえるとわかりやすいと思います。

問題文1

問題文2

問題文3

問題文3の続き

問題文4と設問

 

なんと同じ文章が立命館大学と同志社大学に出題されていて、びっくりしました

同志社大学と立命館大学の国語の入試問題が同じだったのです。第1問の評論の出典が両校とも,「菊地暁『民俗学入門』」で、赤で示した部分が同じになっていました。問題文の大部分が重なっていることがわかります。 

立命館

https://drive.google.com/file/d/1EV9lYokTjs3tGIXXc2oOWWApuPhmre2c/view?usp=drivesdk

出典が他大学と同じになることはたまにありますが、問題文に使う箇所までかぶることは非常に珍しい現象です。

入試日は、立命館2月2日、同志社が2月5日でした。

ともに全学日程入試なので、受験した人数は多かったでしょう。そこで考えられるのは、両校を併願して受験した人への影響です。

2月2日に立命館を受けた人が、2月5日に同志社を受けた時に、評論がほぼ同じ問題文であることがわかると、どうなるでしようか。

一般的には、一度読んだことのある内容は、理解しやすく、設問も解きやすくなります。同じ文章が出てラッキー!と思った人が多かったでしょう。

さらに、予備校などの解答速報を見て勉強すれば、同志社の問題はよくできたでしょう。

各大学は問題作成に苦労しているでしょうが、公平性、客観性が強く求められる大学入試です。同じ問題文にならないように、良問の作成を期待したいですね。

ちなみに設問は立命館の方がバラエティに富んでいておもしろい問題だと感じました。

同志社は記述など従来の設問もありますが、複数資料で考えさせる、共通テストに寄せたような設問があり、取ってつけた感がありました。

「柏木博 視覚の生命力ーイメージの復権」「呉竹充利 ル・コルビュジエと近代絵画ー二〇世紀モダニズムの道程」2023年度共通テスト国語第1問を解いてみました

今年(2023年度)の共通テスト国語第1問を解いてみました。

何かと話題にあがる共通テストはどうだったのかを分析します。

 

第1問は評論です。出典の「視覚の生命力ーイメージの復権」柏木博は、早稲田大学法学部2019年に出題されていました。本文の箇所は異なりますが。

 

以下の赤の波線部は、解答の根拠になると思う部分に私が線引きしたものです。

1

2

3

4

5

問1の漢字は、標準的で、全問正解できるでしょう。

6

 語句の意味です。これも標準的。2問とも正解はたやすいでしょう。むしろ拍子抜けするかもしれません。

7

問2 最初の引用文に根拠があります。画像の1ページで問2と書き込んでいる箇所の傍線部が根拠です。読解ができていれば、たやすく正解を絞れます。

問3 引用文の「外界を二次元の平面へと変える」を踏まえれば正解が絞れます。

複数資料を出題する方針から考えると、「引用文に正解の根拠がある」はずですね。

読解に関係のない引用文をそもそも使わないですから。

問4 選択肢1が紛らわしいですが、「風景がより美しく見えるようになる」が×です。正解の5は「かえって広がりが認識されるようになる」が本文では「そこに水平線の広がりを求める」とあるので、こちらが適切と判断します。ちょっとややこしいですね。

10

問5 根拠となる部分が広い範囲にたくさんあり、(画像4ページと5ページ)「動かぬ視点」「沈思黙考」などの根拠から正解3を選びます。少し時間がかかる設問です。

11

12

問6 共通テストでお約束の「話し合い」問題です。

このタイプの問題は、複数資料の読解や思考を問うといった狙いがあるということですが、私は本来の国語の読解力とは次元の異なる設問だと思っています。個人的には重要性を認めていない設問なので、案の定、間違ってしまいました。集中力が切れたことも原因かもしれません。

もちろん、受験生のみなさんは、そうならないように集中して取り組んでください。

 

(ⅰ)3が紛らわしいですが、「窓の機能には触れられていない」が×

13

(ⅱ)消去法で2が正解です。

14

15

(ⅲ)4が紛らわしいですが、本文の最後の段落を踏まえると3が正解です。

 

さて、解いてみた感想はどうでしょうか。

私は、選択肢が迷うのがいくつかあって、全問正解することができませんでした。天敵の「「話し合い」新傾向問題に対処すべく、研究したいと思います。

 

感想としては、2年後の新学習指導要領を履修した受験生への問題がどう変わるのか、なんとなく見えてきたなということです。

おそらく長文の、本格的な評論文は出題されなくなり、今回のように複数の出典から、しかも引用文が多数の文章が出されるでしょう。

 

問題の傾向が変わるのは仕方がないとして、受験生の立場で考えると、共通テストと難関私大と併願するなら、両方の対策を別々にやっておかないといけなくなると思います。

なぜなら、難関私大は、長文でじっくり深く読解させる評論が出題されるからです。

これには情報処理力の早さだけでは対応できません。

普段は従来のじっくり読解しないといけないタイプの過去問を解いて勉強し、模擬試験の前や共通テストが近づいたら、複数資料、話し合い、情報処理力対策の勉強をするのが適切かもしれません。

 



 

こんなにおもしろい大学入試評論文、見たことない まるで短編小説のおもむきです 関西学院大学 文 2020 加藤尚武「かたち」の哲学

こんなにおもしろい大学入試評論文、見たことない
まるで短編小説のおもむきです 関西学院大学 文 2020 加藤尚武「かたち」の哲学

drive.google.com

形式段落に通し番号をふりました。

本文の要旨です。

1自分の顔を客観的に判断することはできない
4駅の鏡に映るみすぼらしい男の姿を一瞬自分と思わないで見ていた
6恋人のあやめは姉のかきつばたと双子の姉妹である
12私には二人の見分けがつかない
14ブリダンの驢馬は、二つのまったくおなじ干し草の山の真ん中にいる驢馬は飢えて死ぬという話
16ショーペンハウエルはどちらを選んでもいいと反論した
18結婚は、見分けがつかないからどちらを選んでも好いというわけにいかない
19問題は、存在として違う人間が認識としては違いがないという、存在と認識の不一致である
22違う存在が同じ形を持つということは、存在と形とが不可分でありながら、形が存在とは分離できるという形の本性による
23姿というものは、その本体から抜け出して、存在とは別のものになってしまう


本文分析


6スタンダール フランスの小説家
ザルツブルクの小枝 「恋愛論」恋愛によってその対象を美化させてしまう心理
ザルツブルクの塩坑で枯れ枝を投げ込み、二三か月すると、輝かしい結晶におおわれてダイヤモンドで飾られたように見えることから

8ラファエル前派 19世紀中ごろイギリスで活躍した美術家、評論家のグループ
象徴主義美術の先駆 明治時代日本にも紹介され、影響を与えた 夏目漱石 「オフィーリア」

15万葉集「ママノテコナ」 真間の手児奈(古)
16ショーペンハウエル ドイツの哲学者 ニーチェやワーグナーに影響を与えた
21パスカル フランスの哲学者 「パンセ」 人間は考える葦である

 

drive.google.com

設問の解説と解答です。

問一
a方針 イ辛酸  ロ羅針盤  ハ森羅万象 二虚心坦懐 ホ神妙
b偏見 イ編隊  ロ偏屈  ハ唐変木 二片鱗  ホ遍歴
c予期 イ発揮  ロ起死回生 ハ画期的 二数奇  ホ綱紀粛正
d模様 イ最寄り ロ繁茂  ハ曖昧模糊 二水面 ホ喪中

問二 e由緒  f次第  g過程

問三 自分の顔を客観的に見ることが不可能ではない
例は3段、4段
駅の鏡に映る「みすぼらしい男の姿」ー自分だと思わないで自分の姿を見ていたはず
二が正解

問四 「晴れがましくもない」
「晴れがましい」ー多くの人から祝福され、光栄に思う気持ち
イが正解

問五 直前の「ザルツブルクの小枝」がわからなくても「自分の恋人だから美しい」から考える
正解「あばたもえくぼ」ー好意をもって見ると欠点までが美点に見えること

問六 展覧会場で妹あやめと思われた姉の気持ちは
「すばらしい記憶力」には「一種の暗い影のようなものがつきまとっていた」ので、「当てつけ」か「皮肉」
「鼓舞」と「恨み」では「恨み」が適切
ホが正解

問七 14段と15段から「どちらを食べるわけにもいかなくて」「どちらを選ぶこともできずに」とある
ホが正解

問八 16段ブリダンは選択にはかならず何かの理由や原因があるという前提
ショーペンハウエルは選択に遺留が必要という前提そのものを疑う立場
イロハはブリタン、ニホヘはショーペンハウエル
「どちらでも好いという気持ち」はショーペンハウエル
へが正解

問九 「甲しないで」手当たり次第に干し草を食べればいい
「結果を気にしないで」の意ークヨクヨが正解
「胸に乙とくる重し」ー「重し」ズシンが正解

問十 19段Ⅲの直後「存在として違う人が認識としては違いがないという存在と認識の不一致」
存在として違う人ー別人格、姉と妹
認識としては違いがないー外見が同じ
二が正解

問十一 19段傍線部⑤の直後「常識」に注目する
20段「われわれの常識的な世界は」の直後が正解

問十二 
イ5段、6段から×
ロ記述なし×
ハ「形」の根本問題が×
二どんな「存在」でもその「形」の違いを見分けられる×
ホ22段「形が存在とは分離できるという形の本性」とあるので正解

 

解いてみて、どうでしたか?

大学入試で、「あやめとかきつばた」のエピソードを読まされると、おかしくて解いている途中に笑ってしまいそうです。まるで短編小説みたいですね。

ただ、「存在と形」という哲学の話題なので、このエピソードをちゃんと後半の論考につなげられるかが大事です。
頭が固い人には手ごわい問題だったかもしれません。

さすが関学ですね!文章選択のセンスがいい。共通テストも見習ってほしいです。

東京大学 2022年 前期 国語 第一問 鵜飼哲「ナショナリズム、その〈彼方〉への隘路」

東京大学 2022年 前期 文科 鵜飼哲「ナショナリズム、その〈彼方〉への隘路」

 

この大学入試が行われた直後に、プーチンの命令でロシアがウクライナに軍事侵攻をしました。アメリカやヨーロッパはもちろん、世界中の多くの国がこの「暴挙」に反対しています。日本でも「核武装の議論を始めよ」などと元首相や一部の政治家が言い出す始末。まさに「ナショナリズム」の発言を目の当たりにしています。現実に進行している世界情勢と照らし合わせながら、日本の「ナショナリズム」について考えるいい機会かもしれません。

f:id:bluesoyaji:20220323215815j:image
f:id:bluesoyaji:20220323215800j:image
f:id:bluesoyaji:20220323215806j:image
f:id:bluesoyaji:20220323215819j:image
f:id:bluesoyaji:20220323215811j:image

形式段落の要旨をまとめました。

1 カイロの考古学博物館で日本人ガイドから、説明を聞く資格はないと言われた

2 エジプトで日本人が日本人にそこにいる権利はないという

3 日本以外の国のツアーではありえない。客以外の人が聞いて、ガイドにどんな不都合があるのか

4 日本人が排外的に振る舞うことを忘れていたため、日本人から追い払われ逆説的に帰属を確認させられた

5 同じ日本人だからと甘える私と、たとえ日本人でもよそ者は切り捨てるガイドとどちらがナショナリストか。日本のナショナリズムはガイドのように振る舞える人材を養成してきた。国民の一部を非国民とし排除する能力がナショナリズムには必要だ

6 外国では日本人の団体に近づかない自由があるが、日本ではどうか

7 日本にいる人はみな、ただひとり日本人に取り囲まれている

8 ナショナリズムの語源はラテン語「生まれる」という意味の動詞である。一方自然を意味する名詞も同じ動詞から派生した

9 「生まれ」が同じものの間で「自然」=「当然」として主張される平等性と「生まれ」が違うものへの排他性という性格がナショナリズムの不変の性格である

10 しかし、生地も血統も少しも「自然」ではない

11 ナショナリズムが主張する「生まれ」の同一性の自然的性格は仮構されたものだ。自然ではなく一つの制度である。国籍の付与は自然でないものを自然なものとする操作つまり自然化によってなされる

12自然化は決して完了することがない。非自然化はいつでも起こりうる

 

設問を見ていきましょう。

(一)から(四)はすべて「説明せよ」という問題です。

 

(一)「その『甘さ』において私はまぎれもなく『日本人』だった」とはどういうことか

「その『甘さ』」とは国内では集団に分かれて壁を築いているが、国外では同じ日本人だから排除されることはないだろうと認識していたことを指しています。

日本人同士でなあなあで許してもらえるという感覚が「油断」だったのです。

 

(二)「その残忍な顔を〈外〉と〈内〉とに同時に見せ始めている」とはどういうことか

5段落の内容をまとめます。「その残忍な顔」は日本のナショナリズムがこのガイドのように「よそ者」をめざとく見つけ容赦なく切り捨てることを示しています。〈外〉とは日本国民以外の人、〈内〉とは日本国民のこと。ナショナリズムの排他性が内外ともに発揮され始めているということです。

 

(三)「文字通りの『自然』のなかにはもともとどんな名も存在しない」とはどういうことか

本来の自然には「フランス」「日本」といった名は存在しておらず後から恣意的に名付けられたものであるということです。

参考までに鈴木孝夫「ものとことば」によると、唯名論と実念論という概念があり、言葉によって初めて世界は認識できるという唯名論と、言葉より先に世界が実存するという実念論とが対立する。鈴木は唯名論の立場であり、この(三)は実念論の立場ということができます。

ちなみにこれは高校1年生の教科書に載っている評論を参考にしました。ちゃんと現代文の授業を受けていれば、この東大の問題を解く時にもその知識が役に立ちますね。

 

(四)「日本人であることに、誰も安心はできない」とはどういうことか、本文全体の趣旨を踏まえて一〇〇字以上一二〇字以内で説明せよ。

端的に言うと、ある日突然ナショナリズムのキバが自分に向けられることが起こりうるということ。

日本人という「生まれ」の同一性は自然ではなく、仮構された制度であるため状況によって変化しうるものであり、誰でも排除されることがあり得るのです。

 

(五)漢字の書き取り

ユルんで  緩んで

コッケイ  滑稽

シンチョウ 深長

「意味深長」なので「×深重、×慎重」などとしないように

 

模範解答は、河合塾や駿台の解答速報で見ることができます。参考にしてください。

京都大学2022年前期国語 高橋和巳「〈邪読〉について」 国語教師が解いてみたら、とてもいい内容だった

2022年京都大学 前期 国語 文系学部

第二問 高橋和巳『〈邪読〉について』

f:id:bluesoyaji:20220315141847j:image

f:id:bluesoyaji:20220315141859j:image

f:id:bluesoyaji:20220315141910j:image

f:id:bluesoyaji:20220315141920j:image

f:id:bluesoyaji:20220315141933j:image

形式段落の内容をまとめました

 

1 「千夜一夜物語」の語りは、物語が物語を生み、登場人物が語り出した物語の中の人物がまた一つの物語を語り出す

2 これはアラビア文化圏特有の存在論が背後にある

3 私は青春の一時期、この発想に近い読書の仕方をしていた

4 死の誘惑から逃れるため手当たり次第に読書した。読んでいる時の思念は気ままな膨張をした

5 当時、的確精密な要約をする友人がいたが、私はそれができず妄想的読書にのめり込んだ

6 これは邪読であり、自己を一たん無にして他者の精神に接するべきであり、確実で体系的な知識を身につけるために読書すべきである

7 しかし、邪なるものには悪魔的魅力があるものだ

8 ある領域に長じるための唯一の方法は、それに耽溺することである。それは客観的精神の芽生えと矛盾しない

9 耽溺のあと忘却がやってくるが、これにも意味がある

10 創造的読書は必ず忘却を契機とする

11 読書は大部分の消失がなければ、精神の自立はなくなる

12 ものごとは失いかけた時にそのことの重大さを意識する。邪読についても同じである

13 邪読は一つのあり方で、他の読書のあり方を排除するものでない

14 求道型や生活の知識、知恵を得るため、存在の奥底から発するものなど、その人の個性にあったかたちを造り出せばいい

15 理想はさまざまの読書の型をそれぞれの人生の時期に経過することにある。しかし、人は一つの読書のあり方に比重をかけたまま人生を終わらざるをえない

 

問一 傍線部1(こうした発想法)はどのような発想法か、説明せよ。

「こうした」は直前を指します。1段の「物語が物語を生み~」と、ある物語から別の物語が次々と派生していくような発想法のこと。

 

問二 傍線部2(しばしば自分の読書の仕方に対するある後ろめたさの念におそわれた)について、筆者が「ある後ろめたさ」を感じたのはなぜか、説明せよ。

友人との対比を説明します。

的確精密に理解したことを要約する友人の読書法に対し、自分はそんな仕方ができず、妄想的読書にのめり込んでいるから。

 

問三 傍線部3(これはむろん読書の態度としては、いわば〈邪読〉であって)のように筆者が言うのはなぜか、説明せよ。

本来は、自己を無にして他者の精神に接し、確実で体系的知識な知識を身につけるべきだが、筆者はそれに反する妄想的読書を行っていたから。

 

問四 傍線部4(その〈忘却〉にも、意味がある)のように筆者が言うのはなぜか、説明せよ。

創造的読書は、読んだ大部分を顕在的な意識の上からいったん消失することで精神に自立をもたらすため。

 

問五 傍線部5(読書の本質)について、筆者にとっての「読書の本質」とはどのようなものか、本文全体を踏まえて説明せよ。

「本文全体を踏まえて」とあるのが難しい。

段落要旨をつないでみました。

読書は、思念が気ままに膨張し妄想が広がり耽溺させるものだ。ある領域に長じるには耽溺が必要で、その後の忘却によって精神の自立がなされる。多様な読書のあり方をそれぞれの人生の時期に経過すればよいが、一つの型に比重をかけたままにならざるをえない

 

河合塾と駿台の解答速報を見てみましょう。

河合塾は語句やまとめ方が高レベルで、受験生はなかかけない解答です。むしろ駿台の解答例が本文に即した言葉遣いになっています。

どちらがよいということではなく、両方目を通して参考にしましょう。

 

まとめ

読書、邪読のすすめといった趣旨の文章です。京都大学が学生に求める智のあり方が具体的に示されていると思います。

筆者のいうように、私も読書の内容はほとんど忘れてしまっています。しかし、的確な要約や知識の蓄積ができていなくてもいいのだと筆者に認められたように感じて、うれしくなりました。

 

出典 『高橋和巳全集』全20巻(河出書房新社、1977.5~1980.3)第14巻 評論 4

 

高橋和巳全集〈第14巻〉評論 (1978年)

 

京都大学2022年前期国語 岡本太郎「日本の伝統」 国語教師が解いてみたら大変面白かった

2022年京都大学 前期 国語 文系学部

第一問 岡本太郎『日本の伝統』

 

f:id:bluesoyaji:20220315115445j:image

f:id:bluesoyaji:20220315115454j:image

f:id:bluesoyaji:20220315115518j:image

f:id:bluesoyaji:20220315115558j:image

f:id:bluesoyaji:20220315120111j:image

 

 

 

本文の内容をまとめました。

 

1 今日の若い世代は日本の古典芸術よりも西洋の古典芸術の方を理解している。

2 法隆寺金堂壁画の焼失のニュースは、十大ニュースの9位でしかない。

3 失われたものを嘆くよりも、悔いと空虚を逆に作用させ、すぐれたものを作り、伝統としていけばよい

4 そんな気魄こそ伝統継承の直流だ

5 今までの伝統主義に終止符を打ち、新しい世代に、とらわれない新しい目で伝統を直視するチャンスを与えるべきだ

6 竜安寺の石庭で「イシだけ」「タカイ」と言った人は、即物的な再発見によって権威や伝統をたたきわったと言える

7 そんなむぞうさな気分でぶつかって、伝わってくるものが本物、芸術の力であり伝統の本質だ

8 小林秀雄に骨董コレクションを見せられたとき、言い当てると小林は感激し次々と秘蔵品を持ち出した

9 その姿を見て気の毒でもの悲しい気分になった

10 美に絶望し退屈している者こそ本当の芸術家だ

 

岡本太郎の主張が絶好調?の文章です。

伝統に対する考えがはっきりとつかめます。

小林秀雄のエピソードは、小林をありがたがる文学関係者真っ青の内容で、おもしろいですね。小林の本質を突いた筆力がすばらしい。

 

さて、設問を見ていきましょう。

5問すべて「説明せよ」という潔い?設問です。さすがですね。

 

問一 傍線部1(どっちがこれからの世代に受けつがれる伝統だか分からなくなってきます)はどういうことか、説明せよ。

 

「どっち」とは、コーリンとかタンニュー、つまり日本の古典芸術と西洋の古典芸術を指しています。

西洋の古典芸術を見知っている若い世代にすれば、日本の古典芸術に魅力を感じなくなっていることです。

 

問二 傍線部2(自分が法隆寺になればよいのです)はどういうことか、説明せよ。

「法隆寺」が指すものとは何かをつかみましょう。

伝統だと評価されたものが失われたことを嘆くよりも、自分がよりすぐれたものを創作し、伝統にする姿勢が大事だということです。

 

問三 傍線部3(どうもアブナイ)のように筆者が言うのはなぜか、説明せよ。

直前に「うっかり敵の手にのりかかっていたんじゃないか」とある。これがアブナイの内容。

今までの伝統主義にとらわれない新しい目で伝統を直視しようとしていたのに、逆に伝統にからめとられてしまいそうになっていたから。

 

問四 傍線部4(それこそ芸術の力であり)はどういうことか、説明せよ。

「それこそ」は直前の内容を指す。さらにその前2行分を加えて考えましょう。

権威や伝統的価値から離れて、無造作な気分で対象にぶつかり伝わってくるものが本物の芸術ということです。

 

問五 傍線部5(美に絶望し退屈している者こそほんとうの芸術家なんだけれど)について、「ほんとうの芸術家」とはどういうものか、本文全体を踏まえて説明せよ。

本文全体とあるので、石庭や小林秀雄のエピソードから読み取れる筆者の考えを盛り込む。

伝統や世間の評価にとらわれず、自分が新たな美を作り出し伝統にするという気魄をもち、芸術に取り組む者。これを軸として、言葉を足してください。

 

模範解答は、河合塾や駿台のサイトに発表されています。

河合塾は、大変参考になりますが、解答の文言が難解で、高校生にはこの文章を書くのは、ちょっと無理やろと思います。

駿台の方は、比較的親しみやすいです。河合塾の模範解答を見て自分には無理と絶望しないで、どちらも見て吸収しましょう。

 

ちなみに理系学部は、問四が削除されていて、後はすべて文系学部と同じ設問です。

理系を目指す人も、高いレベルの記述力が求められています。

 

まとめ

権威、伝統に逆らい、新たな美を打ち立てる岡本太郎の精神を読み取らせることで、若い学生に必要な教養を示しています。

京都大学の学生には、岡本太郎の思想を引き継ぎ発展させてほしいと願います。

 

 

 

 

 

 

これも面白い入試問題でした 国語教師が解いた入試問題 今福龍太『宮沢賢治 デクノボーの叡知』九州大学 国語 2021年

九州大学 今福龍太「宮沢賢治ーデクノボーの叡知」

形式段落に通し番号をつけました(赤字)

f:id:bluesoyaji:20210304185422j:image
f:id:bluesoyaji:20210304185428j:image
f:id:bluesoyaji:20210304185417j:image
f:id:bluesoyaji:20210304185413j:image

形式段落の要旨です。

 

1模倣(ミメーシス)能力は人間文化における創造性の根源にあるもの


2ベンヤミン「模倣の能力について」
文字以前の文化は内蔵、星、舞踏を読むことからはじまった
内臓を読むとは、人類が内臓感覚を生命記憶の源泉と意識すること
洞窟壁画という模倣の能力の発露が芸術を生み出した


3ミクロネシアの島民ー星座をもとにした独特の航海術
身体的感覚で星の配置を読み取り方向感覚へ投影する
西欧の占星術ー天体を読み身体や世界イメージへと結びつける感覚的思考法


4舞踏ーミメーシスがもっとも深く探究された
メキシコのヤキ族「鹿の踊り」ー神や精霊と交流し世界を蘇らせる

5宮沢賢治「鹿踊りのはじまり」ー舞踏的な身体としてはたらくミメーシスの技法を見事に描き出す物語
森の中を飛び跳ねる鹿の所作をダンスとしてまねし、鹿踊りという芸能を創造する
ミメーシスを通じて自然を文化の側へ架橋する

6子供たちの遊びー模倣的な行動様式でつくられてきた

7身体的ミメーシスは森羅万象と自己とのあいだに呪術的・霊的な交感の関係を打ち立てることで達成
模倣の繰り返しの蓄積によって成立した人類文化の最終的な産物が言語
賢治の擬声語や擬態語、手で書かれた文字

8現代のディジタル化した社会ー文字は情報伝達のための記号的符牒にすぎない
宮沢賢治を読むことは、彼の書き付けた文字そのものの模倣性を身体的なミメーシスの感覚でたどりなおす行為

 

解説です。 

この文章は、何もかもを頭(理性)でとらえようとする現代に対するアンチテーゼであり、宮沢賢治の作品を読むことで、模倣の能力、身体感覚を取り戻そうという考えが示されています。

設問は6問とも「説明せよ」となっています。本文がしっかり読み取れていれば、そう難しいことはないでしょう。

ただし、問5は注意です。
「それは具体的には何か」と指示されているので、「具体的」の範囲がどの程度かを考える必要があります。

駿台と河合塾の模範解答を見ると、かなり違っています。「擬声語、擬態語、手書き文字」をあげた河合塾の方が出題者の求める「具体的」に近い解答と思われます。

模範解答のリンクです。

https://www2.sundai.ac.jp/sokuhou/2021/kyu1_kkg1_1.pdf 駿台
https://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/21/ky1-31a.pdf 河合塾

 

早稲田大学法学部も今年、同じ「宮沢賢治ーデクノボーの叡知」からの出題でした。もちろん使われた部分は異なります。
次年度以降も出題される可能性がありますね。


受験生のみなさんは、今福龍太「宮沢賢治ーデクノボーの叡知」を一読しておきましょう。

 

宮沢賢治 デクノボーの叡知 (新潮選書)

宮沢賢治 デクノボーの叡知 (新潮選書)

 

 

さて、話は変わりますが、4段でメキシコのヤキ族が鹿の頭部を頭にかぶって踊ることと5段の宮沢賢治の「鹿踊りのはじまり」とから、昨年行われたフォートナイトの米津玄師ライブを連想しました。


参考に動画サイトのリンクを貼っておきます。
https://youtu.be/uZWvAsFfB8g 米津玄師がパーティーロイヤルに登場 | フォートナイト公式

 

鹿ではなく、アルバム「STRAY SHEEP」のジャケットイラストの羊を面にして被り、不思議な踊りを踊る米津さんが見られます。

賢治好きで知られる米津さんは、「鹿踊りのはじまり」を確実に読んでいるでしょう。

このメソーシスや自然との交感などを重ねて考えると、米津さんの音楽の特長について、発見があるかもしれません。

京都大学の国語は二問目もすごかった 石川淳「すだれ越し」文系国語第二問 随筆

京都大学 2021年 文系 国語 第二問 随筆 石川淳「すだれ越し」

f:id:bluesoyaji:20210302212254j:image
f:id:bluesoyaji:20210302203351j:image
f:id:bluesoyaji:20210302203355j:image

f:id:bluesoyaji:20210302203426j:image
石川淳は明治32年(1899)〜昭和62年(1987)東京生まれの小説家。36歳で「佳人」を書き、昭和11年「普賢」で芥川賞を受賞、戦時中は一貫して抵抗の姿勢を貫く。戦後は太宰治や坂口安吾とともに無頼派と呼ばれた。小説、評論に独自の世界を展開した。(東京書籍 新総合図説国語を参照しました)


現在の高校国語の教科書では、掲載されているのを見たことがありません。おそらく受験生にとっては初めて読む作家でしょう。


戦中の体験と戦後まもなくの体験が語られた本文は、旧仮名づかいですが読みやすく、読解に困ることはありませんでした。


設問は、5問すべて「説明せよ」です。
解答は、河合塾や駿台のホームページで模範解答を見ることができます。

https://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/21/k01.html 河合塾

https://www2.sundai.ac.jp/sokuhou/index.html 駿台


今回も私の解答は、駿台の模範解答に近いものとなりました。

駿台は本文の表現を使いながらわかりやすくまとめられています。一方、河合塾は、言い換えがされており、語句もやや難解です。

第一問評論の記事でも書きましたが、こちらは受験生が作成するにはレベルが高いと感じました。

一つだけ気になったのは、問二です。
「あはれなカナリヤもまた雷にうたれた」はどういうことか説明。


カナリヤは、わたしの隣に住む毎朝歌を歌う少女を指します。雷にうたれるとは、その少女が空襲の直撃弾にうたれて死んだことです。予備校の模範解答もこの二点を用いて説明しています。


私はカナリヤの記述から、鉱山で用いられていた、かごの中のカナリアを連想しました。危険を察知するために飼われたカナリアです。
その説明は次の通り。

いわゆる炭鉱のカナリアは、炭鉱においてしばしば発生するメタンや一酸化炭素といった窒息ガスや毒ガス早期発見のための警報として使用された。本種はつねにさえずっているので、異常発生に先駆けまずは鳴き声が止む。つまり危険の察知を目と耳で確認できる所が重宝され、毒ガス検知に用いられた。(Wikipediaより引用しました)

少女の死は、私にも危険が近づいてくる予兆だったはずですが、わたしは「不吉の前兆のやうにちよつと気になつたが、それもぢきにわすれた」と書かれています。


河合も駿台も模範解答で「炭鉱のカナリア」には触れていませんが、私は、作者が炭鉱のカナリアのイメージを重ねているように思いました。もし、それを書いたなら、答案はどう採点されたでしょうか、気になります。

 

さて、京都大学がこの出典を選んだ理由を考えてみましょう。
推測ですが、三点上げられます。


まず、文章が大変すばらしい点です。旧仮名づかいですが、読みやすく味わいもたっぷりある文章です。


二点目は、戦争を扱っていること。この数年、国公立大学の二次試験では、戦争を題材にしたものが見受けられます。文学作品で戦争に触れ、考えるようにという大学側の思いがあるのでしょう。


三点目、石川淳の作品が、戦時中、反軍国調として発禁処分を受けたこと。時代に迎合しない反骨精神が京都大学っぽくて(?)評価されたのではと思います。

 

この「すだれ越し」は「石川淳随筆集」平凡社ライブラリー 2020年8月出版 に掲載されています。ひょっとすると、問題の作成者は、この書籍を読んで、入試問題への採用を思いついたのかもしれません。

 

私は、石川淳は未読でした。この問題での出会いを機に、石川淳の作品を熟読し、勉強したいと思います。