bluesoyaji’s blog

定年後の趣味、大学入試問題の分析、国語の勉強方法、化石採集、鉱物採集、文学、読書、音楽など。高校生や受験生のみなさん、シニア世代で趣味をお探しのみなさんのお役に立てばうれしいです。

京都大学の国語問題を解いて考えた 2021年 文系 西谷啓治「忘れ得ぬ言葉」

京都大学2021文系国語
第一問 西谷啓治「忘れ得ぬ言葉」

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形式段落の要旨をまとめました。

1京都大学生として下宿していたころ、親しい友人のなかで山崎深造だけは別格でおとなだった


2京都二年目に私はチブスの疑いで入院した。


3山崎は入院に関して万事世話をしてくれた。
退院直後、彼は自分のことばかり話す私におぼっちゃんだなと言った。
その一言が私には忘れ得ぬ言葉となった。
友人への思いがないことに気づくだけでなく、それまでの自分の心の持ち方に気づかされた。


4世間を知っているという自覚があったが、山崎の言葉で彼に実在的に触れたことで、世間に実在的に触れることができた。


5言葉の本源は生身の人間が語るところにある。
書物の言葉は筆者の存在が薄れてくるが、語られた言葉は発した人間と一体となり実在性を持って自分のうちに定着する。

 

6山崎の言葉は思い出す毎に私に近づき、私も彼の奥へ入っていく。
生死や時間を越えて実感を増す。
本当の人間関係は不思議な縁がある。

 

要旨のまとめ
単なる経験、知識だけでは本質的に人間、世間を理解したとはいえない。相手の人間に実感として触れ、その言葉が自分の骨身になるまで定着し、忘れ得ぬ言葉となる。それが本当の人間関係である。

 

解説

出典の西谷啓治は哲学者で、京都大学で教授を務めました。京都学派と呼ばれています(Wikipedia)


随想的な本文の読解は難しくないでしょう。むしろ設問への答え方が難しいと思います。
本文の表現をどれだけ使うか、あるいはすべて言い換えて自分の言葉でまとめるか、悩ましいです。
大学の採点基準がどうなっているのか、うかがい知れませんが、一般的には、記述は自分の言葉で解答を作成するのがよいといわれています。


予備校の模範解答を参照してみました。河合塾は自分の言葉で言い換えてあり、駿台は本文の記述を用いていました。


私が作成した解答を両予備校のものと比べてみると、駿台のものに近かったです。

河合塾のような言い換えはレベルが高く、受験生(高校生)には難しいのではないでしょうか。

もちろん、解答の理想として参考にすべきですが、高校生のみなさんには駿台の解答の方がおすすめです。

 

さて、京都大学がこの文章を読ませるのは、どんな意図があるでしょうか。


1960年、今から60年ほど前に発表された文章ですが、これを現代の私たちが読むとどう感じるでしょう。
現代の私たちは、インターネットやSNSの普及で、知識や友人を得る機会は増えています。
しかし、生身の人間と深く向き合うことは逆に少なくなってきているのではないでしょうか。
子供の時から兄弟も少なく、近所の子たちと触れあう機会も激減しています。
付き合うのもSNSを通して、あるいは、共通の場面だけでは、相手と深い関係を結ぶことはできないでしょう。
あたりさわりのない関係がよしとされるのが現代の特徴かもしれません。


京都大学は、そういった風潮の学生に対し、危機感を抱いていて、この問題文にあるように、忘れ得ぬ言葉を交わすような、人生の転換となるような、濃密で実在的な関係をすすめているのではないでしょうか。
そうすることで、学生が、かつて西谷啓治が経験したような、「人間」や「世間」にふれ、「おとなの段階」に移行することを期待しているのでしょう。
それをお節介ととるか、適切な人生の指針ととるかは受け手次第ですが。

 

あと、仏教の「縁」を二度、言及している点も目につきます。この文章の発想の根幹に仏教の影響が強くあると思われます。

一般的には公立学校の教育では、宗教の扱いは限定的であり、むしろタブーとされています。しかし、知識や教養として宗教を学んでおくことは、こういった文章を理解するためには必要なものかもしれません。

「点・千・面」隈研吾 同志社大学 全学日程文系 国語 2021年 おすすめの評論文です

同志社大学 全学日程文系 国語 2021年を解いてみました

出典「点・千・面」隈研吾

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段落分けをして、要旨をまとめました。

読解の参考にしてください。段落番号は私がつけました。

 
1ヴォリュームの解体
量塊を点・線・面へ、風通しをよくし人とすべてをつなぎ直したい
ヴォリュームとはコンクリート建築
二〇世紀は工業社会、コンクリートの時代であった
ポスト工業社会は木によって表象される社会
国立競技場ー小さな木のピースを組み上げて作る


2コンクリートの時代
コンクリートでインスタントに生成された大きく頑丈なヴォリュームに多くの人間を詰め込む−二〇世紀の基本的ライフスタイル
空調された不自然な密閉空間を幸福と錯覚
戦争と人口爆発ー大量の住宅が必要ー大きなヴォリュームの空間をスピーディに建設するのが時代の要請
コンクリートは商品化し私有を確定しやすい素材


3線の建築
日本の木造建築は線の建築
木材を組み上げ、その間を土壁、障子、襖で埋めて透明でフレキシブルな空間を作る
風通しがよく快適
ル・コルビジューコンクリート建築のチャンピオンは、桂離宮を嫌悪
ミース・ファン・デル・ローエは線の建築家
金属製サッシとガラスを組み合わせ超高層建築
線と面をあらかじめ工場で用意し現場で組み立てる
コンクリートよりもスピーディに大きなヴォリューム
筆者の批判
空間を効率的に閉じることだけ優先
日本の伝統建築のような点・線・面が浮遊する楽しさ、透け感がない
超高層ビルー牢獄にいるような感じ
コーリン・ロウ「実の透明性」「虚の透明性」
虚の透明性ーガラスを使わず、層状の空間構成で見えない空間を暗示する
イタリアのアンドレア・パラディオの建築を賛美
しかし日本の伝統木造建築は言及しなかった


4ヴォリュームから自由になる方法
カンディンスキー「点・線・面ー抽象芸術の基礎」
バウハウスの教育
筆者の高校時代の読書
退屈ー構成主義的思考、点・線・面を用いた分析
二〇世紀初頭の現象学の流れ
ジェームズ・ギブソンー構成という概念を拒絶、肌理を提唱
生物の心理、行動ー環境の構成ではなく、肌理によって決定される
科学的に分析
人間は点や線などの粒子がないと不安ー自分と世界とをつなぐことができない
環境とは点・線・面が作る肌理であると筆者が考えるきっかけ

 

解説

本文はA4サイズで6枚分。かなり長いので、内容で段落を設定して、その要旨をつかむことが必要です。また、人名が多く出てきます。それぞれどんな特徴があるのか、簡単なメモを余白にでも記入しておきましょう。
内容は、論理が明確で、評論文として優れた文章だと思います。入試問題というだけでなく、読解することで読み手の知識や視野が広がる、いい影響を受ける文章です。

単に難解なだけだったり、実用性ばかりを追求して中身の薄いものだったりする文章は、大学入試には不適切です。私はどんな入試問題を出しているかで、大学の知的なレベルがわかると考えています。


さて、設問を解いていきましょう。

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(一)空欄に入る語句を選ぶ問題。
aは「絵画に関する〜な議論、テキスト」が少なく、「数学的タイポロジー(類型学)に吸い寄せられた」とあるので、2の科学的が正解
bは「すべての絵画論が〜でウェットであったことに不満を感じ」とあるので、5の主観的が正解」
簡単です。


(二)これも空欄に入る語句を選ぶ問題。慣用表現です。
アは読後感がおもしろくなかった理由を述べているので、4の鼻についたが正解。
イは現象学が科学を目指しながら、具体的な方法を見出すことができないまま、どうなったかということなので、3の下火になったが正解
これも簡単ですね。


(三)「二〇世紀はコンクリートに時代となった」の説明
問題文2ページの内容を踏まえると正解は4です。
1は人々の幸福を拡大させたが×
2は曖昧さを排除することが人々の幸福であると定義されたが×
3は開放感にあふれたいろいろな種類の幸福があった時代が×
5は隙間を丁寧に埋めていくコンクリートが×


(四)「線の建築」の説明
この設問は要注意です。傍線部B「日本の木造建築は線の建築である」とあるのに対して、「線の建築」の説明を求めています。
「線の建築」は日本の木造建築だけでなく(選択肢1)、ミース・ファン・デル・ローエも「線の建築」家であると筆者は述べています。この説明は4です。
傍線部Bの説明なら正解は1ですが、「線の建築」だけなら4も正解になるという混乱が生じます。
傍線部B全体で考えて1が正解ということでしょう。
2は人々に嫌悪感を与える煩雑な空間が×
3ははっきりと周辺から切断された私有の空間が×
5は組み合わせが原型となった、ガラス張りの超高層建築のような素朴な構成が×
これはとまどう設問です。


(五)「虚の透明性」の説明
コーリン・ロウの提唱した「実の透明性」と「虚の透明性」についての記述は、次の箇所です。
ガラスを使わなくても、層状の空間構成によって、背後に存在する、実際には見えない空間を暗示する方法を、彼は「虚の透明性」と呼び、高く評価した。
1はガラス至上主義に陥った日本建築の透明感が×
2は襖や障子の併用によって醸し出される透明感が気になるが、ロウが日本建築に言及しなかった点は考えに入れずに、広く考えるとこれが正解
3はガラスが使われるはるか以前から存在した知的な構成が、二〇世紀のモダニズム建築で再現されたが×
4襖や障子を使って外光を仄かに受け入れてつくりだされた、十二単のようなが×
5はガラスで作れば透け感があるという単純素朴な考えによって作られたが×


(六)本文の内容に合致するもの二つ
1と5が正解
2はミースが金属製サッシとガラスでの建築なので×
3はバウハウスの教育方法は後に否定されが×
4は人々にさまざまな心理的効果をもたらしたが×
6は逆。アフォーダンス理論の登場で疑似心理学的議論は色あせたので×


(七)「『コンクリートから木へ』が生涯のテーマだと、僕はずっと考え続けてきた」について、「コンクリートから木へ」を説明
「自分のやっていることを一言でまとめると」とあります。冒頭の3行を用いて解答を作成しましょう。
これに気づけば、簡単ですね。

 

感想

東京オリンピック、パラリンピックのために立てられて国立競技場を設計した隈研吾さんの著書からの引用です。


二月末現在で、オリンピックができるのかどうか不透明ですが、どうであれ、国立競技場が興味深い建築であることが、この問題を解いていてわかりました。
建築の世界も深いですね。それに気づかせてくれたよい入試問題と思います。


ちなみにこの出典も、ホームページで取り上げられていました。
リンクはこちらです。
https://realsound.jp/book/2020/05/post-551281.html
隈研吾が語る、20世紀的な建築からの脱却 「新しい時間の捉え方が必要なのかも」

 

大学入試の出題者は、話題になっている本をネットで探す傾向があるようです。受験生のみなさんは注目しておきましょう。

福田恆存「一匹と九十九匹とーひとつの反時代的考察」 慶應義塾大学法学部 2021年論述力問題を解いて考えた これってSTRAYSHEEP?

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慶應義塾大学法学部 論述力 2021年

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問題は河合塾のサイトから引用しました

https://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/21/k12.html

 

 

数字は形式段落の通し番号です。

各段落で重要な箇所を引用しました。

表記を現代仮名遣いに直してあります。

 

1ぼくはぼく自身の内部において政治と文学とを截然と区別するようにつとめてきた。
「なんじらのうちたれか、百匹の羊をもたんに、もしその一匹を失はば、九十九匹を野におき、失せたるものを見いだすまではたずねざらんや」(ルカ伝第十五章)

一度も罪を犯したことのないものよりも罪を犯してふたたび神のもとにもどってきたものに、より大きな愛情を持って対するクリスト者の態度を説いたもの
2このことばこそ政治と文学との差異を恐らく人類最初に感取した精神のそれである
九十九匹を救えても、残りの一匹においてその無力を暴露するならば、政治とはいったいなにものであるかーイエスはそう反問している。
もし文学もーいや、文学にしてなおこの失せたる一匹を無視するとしたならば、その一匹はいったいなにによって救われようか。
3善き政治はおのれの限界を意識して、失せたる一匹の救いを文学に期待する。が、悪しき政治は文学を動員しておのれにつかえしめ、文学者にもまた一匹の無視を強要する。
それが政治である以上、そこにはかならず失せたる一匹が残存する。文学者たるものはおのれ自身のうちにこの一匹の失意と疑惑と苦痛と迷いとを体感していなければならない。
4この一匹の救いにかれは一切か無かを賭けているのである。なぜなら政治の見のがしてきた一匹を救い取ることができたならば、かれはすべてを救うことができるのである。

善き文学と悪しき文学との別は、この一匹をどこに見いだすかによってきまるのである。一流の文学はつねにそれを九十九匹のそとに見てきた。が、二流の文学はこの一匹をたずねて九十九匹のあいだをうろついている。

ひとびとは悪しき政治に見すてられた九十匹に目くらみ、真に迷える一匹の所在を見うしなう。これをよく識別しうるものはすぐれた精神のみである。なぜなら、かれは自分自身のうちにその一匹の所在を感じているがゆえに、これを他のもののうちに見失うはずがない。

5ぼくたちの文学の薄弱さは、失せたる一匹を自己のうちの最後のぎりぎりのところで見ていなかったーいや、そこまで純粋においこまれることを知らなかった国民の悲しさであった。

が、彼らの下降しえた自己のうちの最後の地点は、彼等に関するかぎり最後のものでありながら、なおよく人間性の底をついてはいなかった。なぜであるかーいうまでもない、悪しき政治がそれ自身の負うべき負荷を文学に負わせていたからである。

6ぼくが今まで述べてきた文学と政治との対立の底には、じつは個人と社会との対立がひそんでいるのである。

そして現代の風潮は、その左翼と右翼とのいずれを問わず、社会の名において個人を抹殺しようともくろんでいる。

7個人は社会的なものをとおして以外に、それ自身の価値を、それ自身の世界をもつことを許されない。社会は個人をその残余としてみとめず、矛盾対立するものとして拒否するのである。

8ひとびとはあらゆる個人的価値の底にエゴイズムを見、それゆえに個人は社会の前に羞恥する。

社会正義という観念の流行にもかかわらず、現実は醜悪な自我の赤裸々な闘争の場となっているではないか、いや、なお悪いことに、あらゆる社会正義の裏口からエゴイズムがそっとひとしれずしのびこんでいる。

9政治と文化との一致、社会と個人との融合ということがぼくたちの理想であることーそのことはあたかも水を得るために水素と酸素との化合を必要とするということほど、すでに懐疑の余地のない厳然たる事実である。

問題はその方法である。その理想を招来するための政治や文学の在り方、社会や個人の在りかたが問題なのである。ぼくは両者の完全な一致を夢見るがゆえに、その截然たる区別を主張する。

10ぼくたちは見うしなわれたる一匹のゆくえをたずねて歩かねばならぬであろう。

そしてみずからがその一匹であり、みずからのうちにその一匹を所有するもののみが、文学者の名にあたいするのである。

 

要約

 

百匹の羊のうち一匹をうしなえば、その一匹を探すのがイエスの教えである。

政治と文学との差異も同じで、政治では救えない一匹を救うのは文学である。

しかし、近代日本文学は、一匹に向き合えなかった。個人と社会の対立が潜んでいる。

社会正義のもと、個人のエゴイズムは排除され、個人は社会から抹殺される。

政治と文化との一致、個人と社会の融合のために、その厳然たる区別が必要だ。

 

設問

「個人と社会の緊張と対立について、あなたの考えを具体的に論じなさい」となっています。

 

最近の問題で思いつくものをあげてみます。

・コロナ禍の自粛と経済問題

・貧困、貧富の格差問題

・生活保護などセーフティネットの問題

・自己責任論

・政治家の忖度、責任回避問題

・マスコミ報道の問題

・原発事故による故郷喪失の問題

いずれの問題も、現代の日本社会が九十九匹どころか、わずかの羊しか救っていないこを示しています。

一匹を救うことの意味をしっかり考えて、具体的に意見を述べましょう。

 

河合塾のサイトに解答例が掲載されています。(冒頭のリンクを参照)

 

 

感想

なかなかの難問です。

読解が難しい。今の高校生が福田恆存の文章に触れる機会は皆無でしょう。教科書はもちろん、問題集、参考書に掲載されているのを見たことがありません。

三十数年、高校教師をしている私でも、福田恆存の名前と顔写真ぐらいしか知りませんでした。

1947年発表のこの文章を読ませる慶應義塾大学の意図は、どこにあるのでしょう。

さすが慶應義塾大学としか言いようがありません。この問題を読解して論述する力のある人は、相当優秀でしょうね。私が高校生だったら、即撃沈です。

未来の日本を開いていくであろう人材に期待しましょう。

 

さて、もう一つ気になったことがあるので、書いておきます。

冒頭に引用されている「一匹の羊」の話は、いうならばSTRAYSHEEPストレイシープ、迷える羊のことですね。

ストレイシープといえば、漱石の三四郎で有名ですが、今は、米津玄師さんのアルバムタイトルとしても知られています。

米津さんは、ひょっとしたら、この福田恆存と同じ考えでないのかと思いました。

今の日本の政治で救えない一人を音楽で救おうと考えているのではないでしょうか。

 

そういえば、米津さんのライブに行ったとき、米津さんが今までのファンを一人もこぼさずにやっていきたいという話をされていました。

今から思えば、一匹の羊と通じる話です。

 

さすが米津さん。宮沢賢治や中原中也だけでなく、福田恆存まで読んでいたとしたら、空恐ろしい人ですね。

 

 

 

高校教師が解いてみた 2021年 早稲田大学法学部 国語 第3問 今福龍太『宮沢賢治 デクノボーの叡知』

コロナ禍での大学入試が行われている中、2021年の早稲田大学の問題が興味深かったので、解いてみました。 

第3問 今福龍太『宮沢賢治 デクノボーの叡知』からの出題です。

 

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形式段落に通し番号をつけると、8段落になります。

それぞれの段落で、重要と思われる部分を抜き出しました。

読解の参考にしてください。

そして、設問への解き方を簡単に解説しました。参考にしてください。

 

各段落の重要箇所

 

1〜3は筆者の体験と考察
4〜8はフォークナーの小説「熊」の考察

1野生の熊に出くわした体験ーカナダと北海道
 恐ろしい獣への畏怖というよりは、むしろ不思議な昂ぶりのような感覚
 自らが失ってしまった「野生」との繋がりを深い記憶の底からさぐりだし、かつてありえた森羅万象との「一体化」の夢を熊に託していた
 人間の本源的な感覚意識の重要な部分に触れてくる、特別の喚起力をもった生き物


2人里に現れる熊の増加ー奥山と里山との関係の変化
 人の気配がなくなった中山間地域に警戒心を解いた熊が出入りするようになった
 「害獣」として認識されるようにさえなってしまい
 aを持続してきた人類の長い歴史が、いま大きな転換期にある


3人間にとってどのような存在だったのか
 人間が、おのれの自然的存在の根源について思考しようとしたときに現れるものが熊であったとすれば、熊を害獣として、あるいは危険生物として撃退するような発想は、人間という存在の本質をも否定してしまうことにつながりかねない


4ウィリアム・フォークナーの小説「熊」
 狩猟を通じて行われる一人の若者の精神形成を描いた、謙虚さと勇気の獲得をめぐる「教養小説」の姿をとっていますが、ほんとうは野生動物と人間とのあいだの深い交感と厳格な掟をめぐる哲学的な主題を持った作品なのではないか


5少年は、近代的な搾取者としての猟師であることから離れ、より深い自然との融合の場へと参入していく


6熊が死ぬと人も死ぬ。それは、つまり原生林の掟の中で生きる生命すべてが、連続した一つの命脈によってつながっていることを示唆しています。
自他融合の中の高次の理法を知ること
知らず知らず人間中心主義に染まった道徳観念を打ち立ててしまった私たち


7太古からの自然の摂理、この「森の掟」についての物語


8「古の野生」そのものの不可侵にして深遠な存在が、暗示されています
しかし、…「破砕と破壊の回廊」のなかを凶暴な獣として駆け抜けるほかなかったのです。
アイク少年は、…破壊の歴史を、インディアンと黒人という虐げられた者たちが持つ深い叡知を通じて、自らの内面においてすでに抱き取っていたのでした。

 

設問を見ていきます

問十三 漢字の書き取り
A峡谷 「狭い」と間違いやすい
B火急 火が燃え上広がるように急なこと

Bの火急がわかりにくいかもしれません。

 

問十四 「釘付けになった」の意味
 「目が」とセットで「目が釘付けになる」となって、美しさに心が引かれる、の意味になります。

これは簡単。


問十五 「不思議な昂ぶりのような感覚」の説明
傍線部2の次の行に「自らが失ってしまった『野生』との繋がりを深い記憶の底からさぐりだし、かつてありえた森羅万象との『一体化』の夢を、熊に託していたのかもしれません」とあります。
これを踏まえると、
イは「自分もそうありたいというあこがれの気持ちを〜」が×
ロは「文明化する以前の人間の生の痕跡があることを実感し、」が○、「言い知れぬ喜びがこみ上げてきた」が「昂ぶりのような感覚」とも解釈できるので、これが正解。
ハは「信仰の対象ともなっていた」「満ち足りた思いを感じていた」が×
ニは「ふてぶてしさにたじろぎながらも」「その『熊』に立ち向かうために〜」が×
ホは「わが物顔に闊歩する『野生の熊』の荒々しい様子」が×

 

問十六 aにあてはまる語句
2段落では、奥山が生息域であった熊が、近年里山にえさを求めて出入りするようになった。人間は害獣とと見なすようになったとあります。これを踏まえて
イ深い共棲の関係が○
ロ都市と農村が×
ハ恩恵に依存するが×
ニ一方的に搾取が×
ホ信仰と文化が×

これも簡単。

 

問十七 「熊を害獣として、あるいは危険生物として撃退するような発想は、人間という存在の本質をも否定してしまうことにつながりかねない」について、人間と熊との関係の説明として適切でないものを二つ選ぶ。
イ「森の主」として、君臨し、恐れられた存在が×
ニ山間部の奥地にまで人間の開発の手が伸びたことで、熊たちは本来の生息地を奪われが×
ロ、ハ、ニはいずれも本文の記述と一致する。
したがって適切でないものはイ、ニが正解

 

問十八 b、cにあてはまる語句の組み合わせ
5段落 bを撃つことではなく、過去から伝えられた自然という大いなるcを受けとめようとするアイク。
こうして少年は、近代的な搾取者としての猟師であることから離れ、より深い自然との融合の場へと参入していくのです
とあります。これを踏まえて、
bに入るのは、イ、動物 ニ、獲物。cはイ資源は×、ニ遺産は○。したがってニが正解

 

問十九 「フォークナーが『熊』で描こうとした真のもの」の説明
イは「たった一人で『オールド・ベン』に立ち向かっていく様子を描くことで」が×
ロは「他ならぬ自らの手で葬り去ろうと決意していた」が×
ハは「近代文明との戦いに敗れ去っていく『オールド・ベン』の姿を見つめる」が×
ニは「自然と共に生きる世界を作り上げてきた先駆者たちの労苦を描くことで」が×
ホは「野生の中で生きる術を決定的に失った人間の悲劇が象徴的に表現された」が○。これが正解

 

問二十 問題文の構成や表現の説明
イは「自然環境に関する一般的な理解を否定する根拠として」が×
ロは「後半部で批判することにより」が×
ハは「表現を工夫しながら思考を深めていくさまを確認することができる」が×
ニは「文学的な想像力の広がりの方を優先することで」が×
ホは3段落「熊から人は何を学んできたのか。これらの問いは、いまこそ考えてみるに足るカキュウの問いであるように私には思われます」、4段落「ほんとうは野生動物と人間とのあいだの深い交感と厳格な掟をめぐる哲学的な主題」、8段落「原生の森もまた『時代錯誤』というべき人間たちの長年にわたる所業によって侵略され続け」などから、これが正解

ハが紛らわしい。

 

出典の『宮沢賢治 デクノボーの叡知』を調べてみると、次のホームページを見つけました。

 

「考える人」というサイト

「宮沢賢治の気流に吹かれて」という題名で

今福龍太×真木悠介の対談が掲載されています。

https://kangaeruhito.jp/interview/18624

この「考える人」というサイトは注目しておくといいでしょう。

大学入試の出題者は、このサイトから出典を選んでいるように思われるからです。

あくまで憶測です。

 

高校教師が解いてみた 大学入学共通テスト国語 第2日程 第2問 小説「サキの忘れ物」津村記久子

共通テスト第2日程 国語 第2問小説「サキの忘れ物」

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本文の読解

 

登場人物は主人公「千春」と常連客の「女の人」が中心で、ほんの少しだけ店長とアルバイトの菊田さんが終盤に登場する。

千春と女の人の会話も、複雑な内容ではなく、量も少ないのでつかみやすい。

ただし、千春が心の中でつぶやく内容を会話と勘違いしないように注意。

 

本文は一読ですっと頭に入って来る。

いくつかの場面に分けてみる

 

1~19行

・本を店に忘れた女の人が問い合わせる。

千春が本を渡す。

注文を聞く

20~44行

・千春が話しかける。

女の人との対話

45~60行

・「サキ」の本を買いに行く。

64~終わり

・翌日、女の人がブンタンをくれる。

昨日の、本を読んでみての気づき

ブンタンを持ち帰り、部屋に置く。

 

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問1 語句の意味

(ア)居心地の悪さを感じた

 千春が黙り込んでしまい、女の人は、「もしかしたら~ごめんなさいね」と頭を下げる。1所在ない感じは「手持ちぶさた、特に何もすることが無い」の意味なので×。正解は4.

 

(イ)危惧した

 直前「正直、それだけの情報では、なんとかサキだとか、サキなんとかいう人の本を出されるのではないか」と心配するので、4が正解。

 

(ウ)むしのいい

 自身にとって都合のいいというのが辞書的な意味。本を読むと、「高校をやめたことの埋め合わせが少しでもできるなんて」とあるので、1が正解。

 

いずれも簡単ですね。

 

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問2「何も言い返せないでいる」千春の状況や心情の説明

 

38行に「千春は自分が少しびっくりするのを感じた」とある、これが根拠です。「意表をつかれて」と言い換えている2が正解。

1は「彼女の境遇を察し、言葉を失ってしまった」が×

3は「何か話さなくてはならないと焦ってしまった」が×

4は「その皮肉に言葉が出なくなった」が×

5は「話題をうまくやり過ごす返答の仕方が見つからなかった」が×

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問3「とにかく、この軽い小さい本のことだけでも、自分でわかるようになりたいと思った」千春の心情の説明

 

58行目「おもしろいかつまらないかをなんとか自分でわかるようになりたいと思った」

59行目「何にもおもしろいと思えなくて高校をやめたことの埋め合わせ」が根拠です。

5の選択肢が二つの根拠を満たします。ただ、「何かが変わるというかすかな期待をもって」の部分は、本文に根拠がありません。46行目「サキの本のことがどうしても気になって」本をわざわざ買いに行くという行動を取っていることから、本を読むことに「かすかな期待」があったと考えられます。常識的に考えて、あり得ることだと判断できます。したがって5が正解。

 

1は「すぐに見つかるほど有名だとわかり」が×

2は「その本をきっかけにして女の人とさらに親しくなりたいと思った」が×

3は「苦労しながらはじめて購入した本」「内容をそれなりに理解できるようになりたいと思った」が×

4は「女の人から教えてもらいたかったのに」「そのおもしろさだけでもわかりたいと思った」が×

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4「本は、千春が予想していたようなおもしろさやつまらなさを感じさせるものではない、ということを千春は発見した」千春は読書についてどのように思ったか説明

 

76行目「牛専門の画家というのがそもそもいるのか~ありえないと思ったが、千春は、自分の家の庭に牛がいて~ちょっと愉快な気持ちになった」

79行目「ただ、様子を想像していたいと思い、続けて読んでいたいと思った」

これが根拠です。

 

5の選択肢が根拠と合致します。「いかにも突飛なもの」「それを自分のこととして空想」「自ら想像をふくらませてそれと関わること」の箇所が合致するので、これが正解。

1は「画家の姿勢には勇気づけられた」が×

2は「苦労して読み通すその過程によって生み出される」が×

3は「事実を知ることができた」「世の中にはまだ知らないことが多いと気づくことにある」が×

4は「おもしろいとは思わなかった」「それを読むに至る経緯や状況によって左右される」が×

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5「すっとする、よい香りがした」ブンタンの描写と千春の気持ちや行動との関係の説明

 

82行目「ブンタンをもらったその日も、家に帰ってからどれか読めそうな話を読むつもりだった」

85行目「お茶を淹れて本を読みたいという気持ち」

この二つが千春の心情の根拠です。

5はブンタンが千春と女の人の姿を結びつけ、その香りが「本を読む楽しさを発見した清新な喜び」につながると解釈しています。無理のない常識の範囲内なので、これが正解。

1はブンタンは「千春が一人前の社会人として認められたこと」を示すというのが×

2はブンタンは女の人への「千春の憧れの強さを表している」が×

3はブンタンを「本を読むときに自分のそばに置きたいと思った」が×「自分にしか関心のなかった千春がその場しのぎの態度を改めて周囲との関係を作っていこう」も×

4は「交流のなかった喫茶店のスタッフに」が×

 

ブンタンの香りは「すっとする」「良い香り」なので、前向きなもの、明るいもの、良いものを連想します。それを踏まえて、根拠は少ないですが、ある程度、常識的に推測して答えましょう。

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6「女の人」について、(1)どのように描かれているか、(2)千春にとってどういう存在として描かれているか、グループで話し合います。

お約束の問題形式ですね。

1)「うれしそうに笑っている」「笑顔で応じている」「自分の事情をざっくばらんに話して」

   「職場で配るために持って帰るのも重いとわざわざ付け加え」「もしよろしければ」

これらから、気さくかつ気遣いが認められるので、2が正解

 1は「自分の心の内は包み隠す」が×

 3は「内心がすぐ顔に出てしまう」が×

 4は「どこかに緊張感を漂わせている」が×

 5は「自分の思いもさらけ出す」が×

 

2)「女の人の言葉をなんだか変な表現~千春の心に変化」「文庫本もきっかけ」「女の人から~千春の心は揺り動かされている」「わかるようになりたい」

  これらを踏まえて選択肢を見ると、

 「他の人や物事に自ら働きかけることのなかったこれまでの自分」という4が正解

 1は「目をそらしてきた悩みに」が×

 2は「後悔するばかりだった」が×

 3は仕事に意義や楽しさを積極的に見出して」が×

 5は「自分に欠けていた他人への配慮」が× 

 やや話し合いの中の根拠が希薄ですが、これも常識的に推測して考えましょう。

 

まとめ

 

高校を中退して喫茶店で働く女性の心情の変化がテーマなので、受験生にとっては感情が推測しやすい、わかりやすい題材だったでしょう。

設問は、本文中の根拠の部分が、傍線部の直近にあるケースがほとんどで、簡単でした。もう少し全体から考えさせてもいいのではないかと思いました。

 

主人公の微細な心の動きをくみ取る力が求められています。

本文は良い小説だと思います。しかし、設問内容は繊細すぎませんか?

 

1日程の小説問題「羽織と時計」と比較すると、こちらの「サキの忘れ物」が易しいです。

従来のセンター試験では、追試験の方が難しいというのが定評でした。私自身もセンター試験の過去問を解いてみて、追試験の方が難しいと感じてきました。

推測ですが、第二日程ありと公表されたのが、昨年(2020年)6月です。その頃からあわてて作問したのであれば、難易度に差が出たことも理解はできます。

いや、もっと前から準備していた問題だというのであれば、休校で勉強の遅れが出た受験生や、コロナで第1日程が受けられなかった受験生に易しめの問題を充てるという配慮(?)なのかなと勘ぐってしまいます。

 

参考に

こんなサイト記事を見つけました。

好書好日インタビュー津村記久子さん「サキの忘れ物」インタビュー 選ばれるより、自ら選ぶ人生 2020.7.21

https://book.asahi.com/article/13553134 

 

 

「運命の出会い」がなくたって、「選ばれた存在」でなくたっていい――。作家、津村記久子さん(42)の新刊『サキの忘れ物』(新潮社)は、読めばそんな励ましが聞こえてきそうな短編集。

表題作は、誰かに選ばれるのではなく、自分の人生を自ら選ぼうと、小さな一歩を踏み出す女性を見つめた物語だ。

 

 

「自分の人生を自ら選ぼうと、小さな一歩を踏み出す女性」これを読んでいたら、設問もばっちり解けたでしょうね。一読をお勧めします。

この記事を見て作問したのでは、と思ってしまいました。

大学入学共通テスト 国語 第1問評論「江戸の妖怪革命」を解いてみた 解き方と感想も書きました

2021年度 大学入学共通テスト 国語 第1問 評論

出典『江戸の妖怪革命』香川雅信

 

問題へのリンクです。(毎日新聞)

https://mainichi.jp/exam/kyotsu-2021/q/?sub=NTL

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第1問の段落の要旨をまとめました。

 

1フィクション、娯楽の対象としての妖怪が生まれた背景は

2フィクションの世界に属する存在としては近世中期から

3妖怪は日常的理解を超えた不可思議な現象に意味を与えるもの

日常的な因果了解で説明できない現象ー不安と恐怖を喚起

なんとか意味体系の中に回収するため生み出された文化的装置が妖怪

4リアリティを帯びた存在ーフィクションとしての妖怪は生まれない

5妖怪に対する認識の変容とその歴史的背景は

6フーコーの「アルケオロジー」を援用する

7知の枠組みの変容ー一つの枠組み(エピステーメー)を通して事物の秩序を見る

         |

    時代とともに変容する

8フーコーのエピステーメーの変貌ー物、言葉、記号、人間ー関係性による

9(10)アルケオロジーの方法で日本の妖怪観の変容を見る

11中世ー妖怪は凶兆ー神秘的存在からの警告(言葉)、一種の記号

12近世ー物そのものとしてあらわれる

     博物学的な思考、嗜好の対象に

13記号ー人間が作り出せるものに

神霊の支配から人間のコントロール下に

記号=表象

14表象ー名前、視覚的形象による弁別=キャラクター

リアリティの喪失、フィクショナルな存在、人間の娯楽の題材へ

15近代ーリアリティのなかに回帰する

16人間の絶対性に懐疑

人間ー容易に妖怪を見てしまう不安定な存在、コントロール不可能な内面を抱えた存在

妖怪ーフィクショナルな存在から人間の内部に棲みつく

17私という思想ー謎めいた内面を抱え込む

           |

         私は不気味なもの、未知なる可能性を秘めた神秘的な存在

  妖怪は私を投影した存在

18以上がアルケオロジー的方法による妖怪観の変容 

 

設問を解説します。

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問1 漢字問題

(ア)ミンゾクー民俗 「民族」ではないので注意。ただし他の選択肢に「族」を使う字はない

(イ)カンキー喚起 選択肢4「交換」の「換」と間違えないこと

(ウ)エンヨウー援用 この語を知らないとできないかも。学問するには必須の語。「先行の論文を援用する」

(エ)(オ)は簡単でしょう

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問2 傍線部Aの後に「そうした存在だった」と続く。傍線部の前の部分、3段落の内容で考える。

1 「理解を超えた不可思議な現象に意味を与え」、「日常世界のなかに導き入れる」=「意味の体系のなかに回収する」の言い換えなので、これが正解。

2 「フィクションの領域においてとらえなおす」が× 

3「目の前の出来事から予測される未来への不安」が×

4「リアリティを改めて人間に気づかせる」が×

5「危機を人間の心に生み出す」が× 紛らわしいが、危機を生み出す現象を妖怪とした

 

・3段落の読み取りができていれば、簡単です。

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問3 フーコーのアルケオロジーを援用するので、その説明をしている部分です。ある意味「複数資料」的な設問です。

関連する7、8、9段落のうち、7段を吟味しましょう。

1「考古学の方法に倣い」が×

2 7段落「事物のあいだに何らかの関係性をうち立てるある一つの枠組みを通して、はじめて事物の秩序を認識することができる」とある。この部分のまとめが選択肢の前半。「この枠組みがエピステーメーであり、しかもこれは時代とともに変容する」のまとめが選択肢後半。したがってこれが正解。

3 「要素ごとに分類して整理し直す」が×

4 「同じ認識の平面上でとらえる」が×

5 「大きな世界史的変動として描き出す」が×

・選択肢は言い換えではなく、まとめになっているので簡単です。

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問4 妖怪の「表象」化について、12、13、14段落を読みましょう。

神霊から人間のつくるものへー「記号」から「表象」へー「物」そのものとしてあらわれるーキャラクター化―架空の存在、娯楽に 

この流れをつかむ。

1「人間が人間を戒めるための道具になった」が×

2「神霊の働きを告げる記号」から「人間が約束事のなかで作り出す記号」になり=13段落、「架空の存在として楽しむ対象」=フィクショナルな存在として人間の娯楽の題材へ とあるので、これが正解

3 「人間世界に実在するかのように」が× 「リアリティを喪失」とある

4 「あらゆる局面や物に及ぶきっかけ」が× 「帰結である」とある

5 「人間の性質を戯画的に形象した娯楽の題材」が× 本文になし。

・段落要旨をしっかりつかんでいれば難しくない。

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問5 これは新傾向の設問です。「ノートを作る」というアイデアは予想問題集などにもない形でしょう。作問の工夫がうかがえます。

)()は段落要旨を参考にして解きましょう。

同じ内容の選択肢は印をつけておく。2段落「歴史性を帯びたもの」、5段落「認識がどのように変容したのか。そしてそれは、いかなる歴史的背景から生じたのか」とあるので、4が正解。

・文章構成を考えさせる問い。段落要旨をつかんでいれば簡単です。

 近世は12、13、14段落を見る。14段落「視覚的形象によって弁別される」「キャラクターであった」とあるので3が正解。1「恐怖を感じさせる」が×。2「神霊からの言葉を伝える記号」が×。4「人を化かす」が×

  近代は15、16、17段落を見る。16段落「内面というコントロール不可能な部分を抱えた存在」とあるので、正解は4。1「合理的な思考をする」が×。2「自立した」が×。3「万物の霊長」が×

・これも選択肢が短く単純なので簡単です。 

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は小説「歯車」芥川龍之介の引用と考察です。複数の資料問題の新たなバリエーションです。

17段落の内容―「私」は私にとって「不気味なもの」、「未知なる可能性を秘めた神秘的な存在」

ノート3の内容―「仕合わせにも僕自身に見えたことはなかった」、「死はあるいは僕よりも第二の僕に来るのかもしれなかった」、「ドッベルゲンガーを見たものは死ぬ」

1「別の僕の行動によって自分が周囲から承認されているのだ」が×

2「ひとまず安心」、「もう一人の自分に死が訪れるのではないか」、「自分自身を統御できない不安定な存在であること」いずれも○。したがってこれが正解。

3「会いたいと思っていた人の前に別の僕が姿を現していた」が×

4「自分が分身に乗っ取られるかもしれないという不安」が×

5「他人にうわさされることに困惑していた」が×

・段落と引用の要旨を踏まえて、選択肢のあら探しをする。簡単です。

 

 

第1問の感想

・複数資料と言われていたため、グラフや図表の多用を想定していた人は、肩すかしを食らったかもしれません。

 

・試行テストで不評だった「契約書」「生徒同士の話し合い」が出題されませんでした。その分、最近のセンター試験の傾向を延長したような印象を受けました。

 

・対策としては、段落要旨をまとめる練習をする、新書レベルで幅広く読書をするなどがおすすめです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト 受験上の注意」を読んで、コロナ対策の要点をまとめてみました。

令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト
受験上の注意

公表されているので、以下、コロナ関連で気になる点、重要だと思われる点を考察していきます。

引用等は一部なので、必ず「受験上の注意」の全文を読んでご確認ください。

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p1の特に気をつけなければならない注意事項6項目あるうち、

(4)試験場内では、常にマスクを正しく着用し、手指消毒や三つの密の回避などを行うとともに、休憩時間や昼食時等は他の受験者との会話、交流、接触を極力避けてください。

これについて、

ポイント

「常にマスクを正しく着用し」


マスクを外してしまったり、アゴに引き下げていたりしてはいけません。「常に」「正しく」着用することを求められています。
つい授業中、外してしまう人は要注意。


2 「他の受験者との会話、交流、接触を極力避けてください。」


これは厳しい指示です。これまでのセンター試験では、休憩時間や昼食時に、友人や同級生、同じ学校の生徒と交流し、雑談して息抜きをしていました。それがほぼ、できないのです。

ただでさえ緊張を強いられる大学入試です。メンタル面で大丈夫なのか、心配になります。

 

いわゆる「ぼっち」で入試に立ち向かわないといけないのです。

今年の受験生のみなさんは、「ぼっち」対策を考えておきましょう。

 

もし私が受験生だったら、お気に入りの音楽を聴くか、おやつを食べるか、教室の外を歩くかして気を紛らわします。

 

p3 新型コロナウイルス感染症感染予防対策(引用は一部のみ。要旨)

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(1)試験前
① 「各自の判断において予防接種を受けることを検討してください」


インフルエンザの予防接種をできるだけ受けなさいという指示です。

しかし、12月中旬の現在、インフルエンザの予防接種が受けられる地域がどれだけ残っているでしょうか。

私は、11月中旬に、かかりつけの医院に尋ねると、在庫なし、2週間後に問い合わせてくれと言われました。12月上旬に電話すると、もう今期は入荷しないと言われ、接種できませんでした。

受験生のみなさんはどうでしょうか?国の計画でワクチンの生産量が決まっているらしいので、今更増やせないのでしょう。現実的には厳しい推奨です。


「健康観察記録を活用して体調の変化の有無を確認してください」
「健康観察記録」は体温や、症状を記録できる表です。

保育所の手帳のようなものですね。受験生に毎日、モニタリングせよということです。その余裕があるでしょうか。少し心配です。


「試験日の2週間程度前から発熱・咳等の症状がある場合」「あらかじめ医療機関を受診し、適切な治療を受けてください」


2週間前は1月2日、正月です。

特に年明けから体調に注意せよとのことですね。


「新型コロナウイルス等の感染症に罹患し、試験日に入院中又は自宅や宿泊施設において療養中の者」は「受験できません」「追試験の受験を申請してください」


コロナを罹患していると、当日の受験はできず、追試験を申請しなければなりません。


発熱や咳があり体調が万全でない場合も、追試験の申請をすすめています。


保健所から濃厚接触者として健康観察や外出自粛を要請されている者は、無症状であれば、以下の4要件をすべて満たしている場合、受験が認められます。
ア PCR検査の結果が陰性(自治体のPCRのみ)
イ 受験当日も無症状
ウ 公共交通機関を利用せず、密を避けて試験場に行く
エ 終日、別室で受験する

 

特にウは、家族の誰かに車で送ってもらえということです。

ハードル高めです。


「新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAを活用することが望ましい」


COCOAについて調べてみましたが、詳しいことはわかりませんでした。

ちなみにわたしの職場(高校)では、これまでにCOCOAを利用せよという指導は行っておりません。


(2)試験当日


体調不良時の対応


ア 「健康状態チェックリスト」の確認項目のうち、A欄で1項目以上又はB欄で2項目以上該当する場合、受験できません。追試験の受験を申請してください。


ウ 試験場に到着してから発熱・咳等の症状が出た場合、監督者や試験場の担当者に申し出て、指示に従ってください。


エ 明らかに激しい咳を何度もしているなど、他の受験者に影響があると監督者が判断した場合、受験を中断して休養室等に移動し、症状の確認後、追試験の受験を申請してもらうことがあります。

普段から咳が出やすい人は、対策を考えておきましょう。

例年以上に気を遣いそうです。

 

試験場への入場


ア (混雑対策)問い合わせ大学のホームページを確認してください

 

東海大学のホームページには、詳細な情報が掲載されていました(12/18現在)


イ 許可のない保護者等の入場はできません。

心配で付き添いを考えている保護者の皆さん、学校や塾、予備校の関係者の皆さん、今回の入試は応援に行けない、いや、行かない方が良いようです。

私もかつては、毎年、センター試験の会場前で、自分の高校の生徒を見送っていましたが、共通テストはそれをしないでということです。


マスク着用


ア 「マスク(予備のマスクを含む)を持参し、試験場内では常にマスクを正しく着用してください。」


「感覚過敏等によりマスクの着用が困難な場合は、「医師の診断書」を提出して受験上の配慮申請を行い、別室での受験を申請する必要があります。」


「受験上の配慮申請」は、高校から提出するため、該当する人はすぐに担任や進路指導の先生に相談しましょう。


手指消毒の実施
ア 入退室を行うごとに手指消毒を行ってください。
イ 速乾性アルコール製剤等を使用することが難しい場合、受験者自身でこれに代わるものを準備し、手指消毒を行うようにしてください。


休憩時間
ア 「休憩時間等は、他者との会話、交流、接触を極力控えるとともに、試験室内では自席以外に座らないでください。」


イ (トイレ使用)手洗い後に使用するハンカチ、ハンドタオル等は各自持参してください。


昼食
ア 昼食は、試験場の食堂棟が開放されていないため、各自持参の上、自席で食事をとってください。


イ 「昼食時はマスクを着用していないことから、他者との会話、交流、接触は特に控えてください。また、食事を取り終えた後は、速やかにマスクを着用してください。」


服装
「換気のため窓の開放等を行う時間帯があるため、上着などを持参してください。」

 

毎年よく相談されるのが、当日は制服か私服のどちらがいいかという事です。

自分が一番リラックスできる服装で、脱ぎ着しやすいものを着ていけばいいとアドバイスしています。

制服で行く人は、コートなどの上着を着ていきましょう。


試験室からの退室
(混雑を避けるため)監督者から退室方法等について指示がありますので、その指示に従って退室してください。


(3)試験終了後


①帰宅の際は「三つの密」の回避など感染しないような行動をするとともに、帰宅後は手洗い等の感染予防対策を十分に行ってください。


「試験終了後2週間以内に新型コロナウイルス感染症に罹患したことが判明した場合は、受験票に記載されている「問い合わせ大学」に連絡してください。」

 

 

かなり細かいことまで指示がされています。これらを全部読んだ上で、理解し、実践しなさいと求めています。

 

追い込みの勉強に追われている受験生の皆さんに、少しでも参考になればと思い、気になる要点をまとめてみました。

学校から配られる「受験上の注意」を必ず読んで確認しておいてください。

 

現実主義と無常感の両立へ 21世紀の感染症と文明 山崎正和 を読んで考えた

現実主義と無常感の両立へ

21世紀の感染症と文明 山崎正和 を読んで考えた

 

第4章 最終章です。

現実主義と無常感の両立へ

23日本人の美徳が国難に勝ち、無事に最終局面を迎えられるかはわからない。コロナの後に、どんな世界を残さねばならないかが課題である。


24 十四世紀のペスト流行の結果、西洋社会は封建時代の終わりを準備した。人口減により、労働生産性を高めて産業近代化への道を開いた。
同じ程度の変化が起こるとは考えがたい。世界は緊急の問題を抱えていることが暴露された。


25それはグローバル化である。これがコロナの防御に何の役にも立たなかったことは明白だ。民衆を守ったのは国家であり、自衛のために一国主義的に働く国家である。


26今後の人類はグローバル化の暴走に慎重になり、巨大グローバル企業に批判的になるだろう。


27国家が急ぐべきことは、未来世代との平等問題であり、巨大な借財の処理である。そのためには思い切った所得税改革や海底資源の国有化もよいだろう。


28現実の課題以上に重大なのは、国民の世界観の転換だろう。現代は疫病が社会を揺るがすことはないという通念が近代的な傲慢にすぎなかったことを思い知らされた。


29現代も古代や中世に直結しており、文明の進歩と呼べる飛躍はなかった。人類は、文明を進歩させるという迷信は諦めるべきだ。


30今後の日本人は、このように考えを改めるだろうし、そうあってほしいのが私の願いだ。今回の経験が、伝統的な日本の世界観、無常感の復活に繋がってほしい。
無常感は健全な思想であり、感傷的な虚無主義ではない。現実変革に知恵と技を発揮しながら、それを無常と見明きらめる醒めた感受性である。


31「いろは歌」を通じて学んだ真実が今、共有されつつある。

 

感想

グローバル化が後退するのは、その通りだと思います。

ある種の鎖国が、この21世紀に行われるとは想像すらできませんでした。

 

大学や高校などの教育現場でも、グローバル化は絶対的な命題になっていた感がありました。

その見直しがどの程度まで行われるのか、全く予想できません。

 

経済の対策も、未来の世代への責任として必要でしょう。しかし、日本近海のレアアース採掘者に高額税をという提言は、首をかしげました。採算が取れないでしょうから。

 

さて、今回の論文の眼目は、28~31です。

近代的な世界観、進歩主義は迷信であり諦めるべきだという主張は、ある意味、過激です。

そして、今後の私たち日本人は、無常感を持つべきだと説きます。

 

その無常感とは、30段にあるように、「現実変革に知恵と技を発揮しながら、それを無常と見明きらめる醒めた感受性である」というものです。

この章のタイトルが「現実主義と無常感の両立へ」とあるとおりです。

最後に31段で、それは「いろは歌」の精神であることが示されています。

 

ウィキペディアによると、「いろは歌」は、「いろは歌を記した文献としては最古とされる『金光明最勝王経音義』(こんこうみょうさいしょうおうきょうおんぎ)は、承暦3年(1079年)の成立であることから、いろは歌は10世紀末から11世紀中葉までの間に成立したものとみられる。」とあります。

 

仏教的無常観が「いろは歌」の根本であることがわかります。

これを現代の私たちが学ぶ機会を考えてみると、中学校か高校で、古文を学ぶときに、かなの成立や歴史的仮名遣いの学びとして、接することがほとんどです。

精神の中味まで深く学ぶ機会は、少ないのです、

 

「仏教的無常観」は「方丈記」や「徒然草」などの古文で触れることがありますが、「いろは歌」を通じて学んだ真実とまでは、言えないのではないでしょうか。

 

近代社会をくつがえすような感染症の流行に対し、中世以来の無常感で乗り越えるという山崎先生の論考は、非常にユニークであり、示唆に富むものです。

 

ただ、一点の異を唱えるならば、「仏教」という語を用いていないところにあります。

中世以来の仏教的無常観が「いろは歌」のベースであるのは、先に見たとおりです。

山崎先生は、あえて「仏教」という言葉を使わなかったのでしょうか。

さらに、現代は、無常観を学ぶ機会がほとんどないことも考慮しなければなりません。

 

逆に、この「21世紀の感染症と文明」を読むことで、無常感に注目し、新たに学ぶ人が増える効果があるともいえるでしょう。

 

 

 

 

半世紀の公徳心向上の成果 21世紀の感染症と文明 山崎正和 を読んで考えた

21世紀の感染症と文明 山崎正和 を読んで考えた

 

第3章です。

半世紀の公徳心向上の成果


18「緊急事態宣言」後の日本人は、外出自粛や自主休業など、その自制心は特記に値する。企業の在宅勤務や零細自営業者の休業も自ら行われている。


19日本人の良識と自制心は、長い歴史を持つ。公徳心は東京オリンピックを迎える1960年代前半、行政の努力によって街からゴミが消えた。


20日本人の社会感覚が変わり、美と倫理の基準が芽生え直したのは1970年代初めである。「モーレツからビューティフルへ」という標語を実現するものになった。


21経済成長の内容は、量産一点張りからデザインやコンセプト重視へと移った。商品デザインの多様化が進み、文化産業への傾倒が強まった。


22身辺を美しくすることに関心が移るとともに、行いを美しくするようになった。その頂点として、ボランティア活動が不動の風習となったのが一九九五年一月である。

 

感想

1960年以降の日本人の意識の変容が書かれています。

私は1960年代生まれなので、この記述内容にあるとおり、社会の変化を実感してきました。

この半世紀でずいぶん日本人の公徳心も向上したことがわかります。

その頂点が、阪神淡路大震災のボランティア活動であるという総括は、的確です。

 

山崎先生の記述内容からは離れますが、国の行政、政治家の働く姿勢という面から見ると、向上というよりも、むしろ、劣化が目につくように思います。

特に今回のコロナ危機に対する政府の取り組みは、多くの国民が不満と不安を抱いています。

国民の公徳心は向上した、そのおかげも有り、コロナの蔓延は防いでいるように思える。

しかし、その一方で国は、政治は、公徳心を発揮して、本来の目的を果たせているのだろうか…

 

こういったもやもや感がぬぐえません。

 

 

共通テスト 試行問題 国語 第2回 第2問(著作権法の問題) 評論を解いて考えた 受験勉強の参考にどうぞ

共通テストが予定通り実施されることになりました。

休校期間が長かったので、受験生のみなさんは特に、共通テストへの不安や心配が強いと思います。

そこで、高校の国語教師が問題を解いてみました。少しでも参考になれば幸いです。

 

試行問題は、大学入試センターが公表しています。リンク先はこちら

https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00035513.pdf&n=02-01_%E5%95%8F%E9%A1%8C%E5%86%8A%E5%AD%90_%E5%9B%BD%E8%AA%9E.pdf

 

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第1問の記述は見送られたので、第2問、評論にあたる問題を解きました。

資料Ⅰと資料Ⅱ、文章の3つを読ませる問題です。

ここでは、文章を取り上げ、段落の要旨をまとめました。文頭の番号は、本文につけられた番号です。

 

1著作者は最初の作品を実体に載せて発表する。これを「原作品」と呼ぶ。 

2著作権法は、原作品に存在するエッセンスを引き出して「著作物」と定義する。 

それは記録メディアからはがされた記号列である。 

著作権の対象は原作品ではなく、記号列としての著作物である。 

3著作権法の対象は(記号列としての)著作物だが、物理的な実体へと及ぶ。 

4著作物は、原作品が壊されても盗まれても存続する。 

5著作物は、テキストに限っても、多様な姿に及ぶ。 

表1の定義に最も適合するのは叙情詩、なじみにくいものが理工系論文、新聞記事になる。これらは表1から排除される要素を多く含む。 

6著作権法の著作物の定義は叙情詩をモデルにしたものである。著作権の扱いや侵害の有無も叙情詩モデルを通している。 

7だが、無方式主義の原則があるため、著作権法は叙情詩モデルでは排除されるようなものまで著作物として認めることになる。 

8叙情詩モデルの意味を確かめるため、特性を表2として示す。 

9表2はテキストについて表1を再構成したもの。叙情詩型のテキストの特徴は、私が自分の価値として一回的な対象を主観的に表現したもの。理工系論文は、誰かが万人の価値として普遍的な対象を客観的に着想や論理や事実を示すもの。 

10叙情詩型のテキストは、表現の希少性が高く、著作物性は高い。 

11(理工系論文は)著作物性は低く、著作権法のコントロール外へはじき出される。 

このテキストの価値は内容にある。それは着想、論理、事実、アルゴリズム、発見である。 

12多くのテキストは、叙情詩と理工系論文とのスペクタルのうえにある。 

13表2からどんなテキストでも「表現」と「内容」とを二重に持っているといえる。著作権法は、前者に注目し、表現の持つ価値の程度によって、その記号列が著作物であるか否かを判断するものである。 

14著作権法は、テキストの表現の希少性に注目し、それが際立つものほど、濃い著作権を持つと判断する。 

15著作物に対する操作は、著作権に関係するものを著作権の「利用」と言う。多様な手段があり、まとめると表3になる。 

16表3以外の操作を著作物の「使用」と呼ぶ。これには著作権法ははたらかない。 

17使用のなかには、書物の閲覧、建築への居住、プログラムの実行が含まれる。 

18 著作権法は「利用/使用の二分法」も設けている。これがないと、コントロールが過剰になり、正常な社会生活まで抑圧してしまう。

 

出典は、名和小太郎

『著作権2.0 ウェブ時代の文化発展をめざして』NTT出版ライブラリーレゾナント 2010年

 

いかんせん、10年前の本なので、著作権法の最新の情報ではなく、あくまで著作権法の概念を扱ったものです。読んでみて、少し古さを感じます。

文体も生硬で、今の高校生には読みづらい文章です。続きを読んでみたいとは思いませんでした。

逆に、出来具合に差を付ける入試問題としてはふさわしいのかも知れません。

 

では、問1漢字から。本文の傍線部と同じ漢字を含む選択肢から選ぶスタイル。

合致、適合、両端、閲覧、過剰

どれも難しくはありません。全問正解できるはずです。

 

問2傍線A「記録メディアから剥がされた記号列」とはどういうものか、資料Ⅱを踏まえて考えられる例を選ぶ、というもの。

資料Ⅱは、著作権法の抜き出しです。

複数の資料を読ませて考えさせるという共通テストのお約束問題です。

文章の2段落から、「エッセンス」、「記号列としての著作物」

資料Ⅱ第二条一から「思想又は感情を創作的に表現したもの」

これらに注目して選択肢を見ると、4「作曲家が音楽作品を通じて創作的に表現した思想や感情。」が正解だとわかります。

問3 【文章】における著作権法の説明として適切なものを選ぶ。

選択肢を吟味していきます。

①「利用」が、「使用」の間違いです。15段落から。これはX。

②11段落で、外へはじき出されるとあるが、7段落で無方式主義の原則があり、除外されるとはいえないので、X。

③14段で二分法の考えが示されているが、訴訟では、より叙情詩型なのか、より理工系論文型なのかの判断によって決められるとある。相対的なものなので、「明確な判断を下す」がX。

④著作物性という考え方は10段、11段で説明されている。それを踏まえると、遺伝子のDNA配列も保護できるがX。

⑤13段落14段落の内容から〇。

選択肢の微妙な言い回しを判断しなければいけない点がやや難しい。

とにかく、本文から根拠になる部分をしっかり探すこと。

 

問4 「表2は、具体的な著作物ーテキストーについて、表1を再構成したものである」とあるが、その説明として適切なものを選ぶ。

資料Ⅰ、資料Ⅱがある上に、文章の中に表1、表2、表3が加わるのは、ややこしすぎや!

どれだけ複数資料好きやねん!との突っ込みを入れながら解きました。

 

「これが文科省の目指す、新しい国語の姿なのか(心の中)」

 

さて、気を取り直して、選択肢の吟味を。

表2は、9段、10段、11段、12段の要旨を見ると、著作物性の程度を示したものと考えられます。相対的な尺度、もの差しのようなものといえます。

①「排除されるもの」の定義をより明確にしている、がX。

②二つの特性を含むものを著作物とするがX。

③著作物の多様な類型を網羅するがX。

④5段落から表1の説明は〇。表2の説明も「著作物性の濃淡」とあるので〇。

⑤類似性がXですね。

 

問5 表現の説明として適当でないものを選ぶ。はい、よくあるケアレスミスに注意しましょう。「適当でないもの」に傍線を引いておきす。自分の脳に、しっかりと認識させましょう。

①「ー」は直前の語句を強調し、主張に注釈を加える働きを持つとあるが、これがX。

「ー」の後は、記録メディア、複製物など、直前のものの具体例です。したがってこの①が正解です。

後の吟味は省略します。

そもそも、この「文章」には表現の特徴を問うような要素は少ないです。冒頭で言いましたが、生硬な文章なので、表現の豊かさはありません。

無理矢理問題を作った感じがします。

受験生は、限られた時間内で、②以降の選択肢の内容も吟味することになるので、はっきり言うと無駄な問題です。

 

問6 資料Ⅰの空欄にあてはまるものを3つ選ぶ。ここで資料Ⅱを読み、第三十八条が関係していることに注目します。

②楽団の営利を目的としていない演奏会であること、は「営利を目的とせず」と合致するので〇。

④観客から一切の料金を徴収しないこと、は「聴衆又は観衆から料金を受けない場合は」と合致するので〇。

⑥演奏を行う楽団に報酬が支払われないこと、は「実演家~に対し報酬が支払われる場合は、この限りではない(上演できないの意味)」なので、〇。

 

この設問は簡単です。もっと資料Ⅱのあちこちを探さないと解けないのかと思いましたが、そうではありませんでした。作問上の制限から、こんなに簡単になったのだと思われます。

 

まとめ

解いてみたみなさんは、出来具合はどうでしたか?

時間制限がある中でこの問題内容であれば、かなり難しいと思います。

論理的な思考力ではなく、資料を渉猟する眼力(本当の視力)が必要な問題です。

どこに何が書いてあったのかを見やすく印し付けをすることが必要ですね。

新学習指導要領を先取りした問題が、なぜ今の高校生たちに出題されるのか大いに疑問ですが、「論理国語」と聞いても、そんなに心配しなくてよいと思います。

なぜなら、論理力を求められているのではなく、情報処理力を求める問題だからです。

複数の資料を読み解き、関連性のある問題に対する解答を発見する、これは、まさに情報処理能力そのものです。

いくつかこの手の問題を解き慣れていく必要はあります。そうすることで、情報の処理パターンが身につくと思います。それで共通テストを乗り切れるなら、たいしたことないではありませんか。

 

今回は、著作権法の理解という題材でしたが、これが、たとえば、ラグビーのルールブックだったり、ロールプレイングゲームの設定だったりしても同じなのです。

ルールを理解し、それをある場面設定では、どう適合させるか、それと同じ力を問われているように思います。

スポーツやゲームのルールなら、高校生のみなさんはお手の物ですね。

共通テストは、それと同じ頭の使い方を求めるものと言ってよいでしょう。

恐れる必要はありません。